2021年に在宅勤務をやめていた人の2020年時点での生産性は平均49と低く、セレクション効果だけで9ポイント生産性の平均値が高まった。しかし、在宅勤務を継続している雇用者に限っても、在宅勤務の生産性は「学習効果」によって70から78へと8ポイント上昇している。オンライン会議システムの習熟、通信回線・パソコンなど自宅の執務環境への投資などが関係している。

職場より在宅勤務の方が生産性の低い人が70%以上

 ともあれ職場と比べた自宅での生産性は依然として平均で20%ほど低く、在宅勤務の生産性が職場での生産性よりも低い人が70%以上を占めている。フェイス・トゥ・フェイスでの迅速な意思疎通の困難、職場でなければできない業務の存在、自宅の通信環境の問題が主な理由として挙げられている。

ただし、米国における同様の調査では、在宅勤務の主観的生産性は低くない(文末参照:Barrero et al., 2021)。こうした日米の違いをもたらす要因は、住宅事情のほか、組織内での意思決定プロセスや仕事の進め方の違いが関係していると推測される。

節約された通勤時間、多くは生活・自由時間に

 在宅勤務のメリットとして、通勤時間を仕事に充てられるので、1日当たりの業務処理量が増えるという議論もある。この点について、在宅勤務者が節約された通勤時間をどう使っているのかを尋ねた結果が図2である。

(注)2021年7月の調査に基づき作図
(注)2021年7月の調査に基づき作図
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 「主に仕事」20%、「半々程度」38%、「主に生活・自由時間」42%である。女性よりも男性が浮いた通勤時間を仕事に充てる傾向が強く、さらに詳しく見ると、賃金が高い人、長時間労働の人ほどそうした傾向が強い。

 節約された通勤時間をあてた労働供給の総労働時間に対する割合を、週当たり在宅勤務実施日数、往復通勤時間、週労働時間を用いて概算すると、在宅勤務者全体で約3%、雇用者全体の総労働時間の約0.7%である。

 もちろん個人差があり、長時間通勤で在宅勤務頻度の高い人は大きい数字になるが、全体としての量的な寄与は限定的である。したがって、在宅勤務の生産性を時間当たりでなく1日当たりで測ったとしても、在宅勤務の生産性に関する前述の結果にはほとんど影響がない。

 他方、節約された通勤時間を家庭生活や自由時間に回せるのは、労働者にとって大きなメリットである。新型コロナ終息後も在宅勤務を続けたいと思うかどうか尋ねた結果が図3である。

(注)2020年6月および21年7月の調査に基づき作図
(注)2020年6月および21年7月の調査に基づき作図
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 1年前に比べて高頻度での在宅勤務継続を希望する人が大きく増え、63%にのぼっている。在宅勤務を継続していた人に限って見ても12%ポイント増加した。在宅勤務に向いたタイプの仕事をする雇用者にとって、新型コロナ終息後もアメニティ価値の高い働き方として定着する可能性が高まっている。

コロナ終息後の在宅勤務と課題

 ただし、在宅勤務、職場勤務は二者択一ではなく、同じ人でも個々のタスクによって在宅で効率的にできることと、職場の方がよいこととが混在している。新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、オンライン会議などの新しいツールが広く普及したので、対面とオンラインの利害得失を考慮し、職場と自宅での仕事の最適な組み合わせ――企業や就労者によって異なる――を模索していくことが重要になるだろう。

 この働き方が定着していく過程での、おそらく困難な課題は、生産性と賃金の均衡、非在宅勤務者との公平感の確保といった観点から、在宅勤務者の処遇をどうするかである。中長期的には賃金は生産性を反映する。

 在宅勤務の生産性が高い人については深刻な問題は生じないが、在宅勤務の生産性が低い人の報酬をどうするかが課題になる。しかし、在宅勤務の生産性の個人差は大きい一方、在宅勤務するホワイトカラーのパフォーマンスを把握するのは非常に難しいので、統計的差別につながる恐れもある。

 現実には、在宅勤務ができない労働者の方がずっと多い。自分自身は在宅勤務をしていないが職場に在宅勤務者がいる人に、在宅勤務者の生産性がどの程度だと感じるか尋ねたところ、職場の50%程度というのが平均値だった。

 在宅勤務が労働者にとってアメニティーの高い働き方だとすると、生産性だけでなく補償賃金の観点からも賃金体系の見直しが必要になるだろう。在宅勤務者の通勤手当や地域手当の扱いなど当面の問題だけでなく、中長期的にも在宅勤務が広がる中で解決すべき実務的な課題は多い。

【参照文献】
森川正之 (2021) 「新型コロナと在宅勤務の生産性:パネルデータ分析」, RIETI Discussion Paper, 21-J-041. Jonathan I.Dingel, and Brent Neiman(2020) "How Many Jobs Can be Done at Home?" Journal of Public Economics, Vol. 189, 104235. Jose Maria Barrero, Nicholas Bloom, and Steven J. Davis (2021), “Why Working from Home Will Stick,” NBER Working Paper, No. 28731.

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■開催概要

・期日 2021年10月5日(火)~10月7日(木)

・主な登壇予定者(敬称略、順不同)
リチャード・セイラー(米シカゴ大学経営大学院教授)、ヘンリー・ミンツバーグ(カナダ・マギル大学デソーテル経営大学院教授)、ダニエル・ヘラー(中央大学国際経営学部特任教授)、マイケル・オズボーン(英オックスフォード大学工学部機械学習教授)、フィリップ・コトラー(米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院名誉教授)、アルビン・ロス(米スタンフォード大学経済学部教授)、リンダ・グラットン(英ロンドンビジネススクール教授)、クリスティーナ・デイビス(米ハーバード大学政治学部教授、ハーバード日米関係プログラム所長)、デビッド・ティース(米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院教授)、ウリケ・シェーデ(米カリフォルニア大サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授)、チャールズ・オライリー(米スタンフォード大学経営大学院教授)、前野隆司(慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)、野中郁次郎(一橋大学名誉教授)、入山章栄(早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授)、小島武仁(東京大学大学院経済学研究科教授)ほか

・予定プログラム(全セッション通訳付き)

Day1-10月5日(火)
最新決定版!「ナッジ」の経済学 8:00~
特別対談:ポストコロナの資本主義とリーダーシップ 9:00~
AIと雇用と資本主義の未来 14:30~

Day2-10月6日(水)
世界の幸福を追求するマーケティング・資本主義 9:00~
マッチングの社会実装で実現する「幸福な市場」11:00~
イノベーティブな企業文化と従業員の心の幸福 18:00~

Day3-10月7日(木)
米中テクノロジー冷戦とサプライチェーン危機 8:00~
特別対談:ダイナミックケーパビリティー×暗黙知 9:30~
日本企業再興×両利きの経営 11:30~

・参加募集の詳細は、後日、日経ビジネス電子版で告知いたします。

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