これらを踏まえると、台湾が中国に対する態度を硬化させた原因は、中国からの脅威が拡大したことにある。それゆえ、中国からの外交的抗議が台湾国内でさらに火に油を注ぐことになっても不思議ではない。以下では、最新の研究成果に基づいて、この外交的抗議の効果を検証する。

政治学実験で明らかになった外交的抗議の効果

 筆者と呉文欽(ウー・ウェンチン、台湾中央研究院)氏の共同研究の成果として国際関係論の学術誌「International Studies Quarterly」に掲載された論文(文末参考文献6)は、中国から台湾への外交的抗議が台湾の世論に与える影響を明らかにしてくれる。

 我々は19年2月12日から3月13日までオンラインアンケートを実施し、2314人の回答を回収した。このアンケートの中では、ランダム化比較試験(randomized controlled trial)を行い、回答者を特定の刺激を受ける介入群と刺激を受けない対照群へとランダムに振り分け、介入群と対照群の人たちの政治的態度の差を政策効果として偏りなく測定しようと試みた。

 我々が用意したのは以下のような架空の新聞記事である。

台湾への米国製軍事兵器の販売

 中国から台湾への圧力が増加する中でワシントンから台湾当局への支持を示すものとして、米国は3億3000万ドル分の軍事兵器の販売を承認した。

 米国の台湾への軍事兵器の販売について、XXは「米中関係ならびに台湾海峡の平和と安定性を損なわないためには、米国は即座に軍事兵器の販売計画を撤回し、米台間の軍事的な結びつきを止めるべきだ」と述べた。

 新聞記事の中のXXは抗議文の発話者で、中国の外交部、日本の外務省、韓国の外交部、民主進歩党(与党)、国民党(野党)それぞれ5人の報道官のうち1人の名前が挿入されて提示される。

 また、第2段落の文章は対照群に割り当てられた人には表示しない。回答者はアンケートを始める際に、5つの異なる介入群(5人の各報道官の名前)と1つの対照群(第2段落を表示されない人)のいずれかにランダムに割り当てられ、架空の新聞記事を読んだ後に、蔡総統への支持姿勢、蔡政権の防衛政策への支持姿勢、防衛予算の規模に関する政策の選好といった3つの質問に回答した。

 実験結果によれば、中国や韓国からの外交的抗議だけが「ラリー現象」を生み出し、蔡総統や防衛政策への支持を増加させるだけでなく、防衛予算拡大の声まで増やすことが分かった。さらに分析すると、中国と韓国からの外交的抗議がラリー現象を生み出す理由は、これらの国々が台湾と政治的争点を抱えているためであることが明らかになった。

 図1に示されるように、外交的抗議を発するのが(日本のような)宿敵ではない国から(中国や韓国といった)宿敵である国へと変化すると、平均的な回答者が蔡総統を支持する確率が0.472から0.545へと増加し、蔡政権の防衛政策を支持する確率が0.793から0.826へと増加し、防衛予算の増額を希望する確率を0.497から0.56へと増加させるのである。

図1:宿敵国から発せられた外交的抗議のラリー効果
図1:宿敵国から発せられた外交的抗議のラリー効果
Source : Kagotani, Koji, and Wen-Chin Wu. 2022. “When Do Diplomatic Protests Boomerang? Foreign Protests against US Arms Sales and Domestic Public Support in Taiwan.” International Studies Quarterly, 66(3). https://doi.org/10.1093/isq/sqac043
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これらの知見を踏まえると、ペロシ氏の訪台に対する中国の激しい抗議は、台湾で政治的反発を生み出し、かえって強硬な対中政策を望む声を強めるような政治的帰結に至ることもあり得る。

中国の強硬な姿勢の政治的帰結

 中国の政治家やメディアは、ペロシ氏の訪台を抑止するため辛辣に抗議した。習近平(シー・ジンピン)総書記は米国のバイデン大統領に「火遊は必ず身を焦がす」と警告。環球時報の胡錫進(フー・シージン)前編集長は「台湾に入るペロシ氏の搭乗機を米軍戦闘機がエスコートすれば、それは侵略だ。人民解放軍には警告射撃や妨害を含め、搭乗機と戦闘機を強制的に駆逐する権利がある。効果がなければ、撃ち落とせ」いった挑発的なメッセージをツイートした。中国のリーダーたちは、これらの攻撃的な声明を用いて、中国人の間に愛国心を喚起し、連帯を生み出そうとしたのである。