グローバリゼーションを独自の視点で分析する国際政治経済学者、ダニ・ロドリック米ハーバード大学ケネディ行政大学院教授。新型コロナウイルス禍、ロシアによるウクライナ侵攻などでグローバリゼーションが揺らぐ今、世界の政治経済をどう見ているか聞いた。
(聞き手は広野彩子)

ロドリック教授は、グローバリゼーションについて長らく研究されてきました。例えば米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が先だって、「グローバリゼーションは衰退する」と明確に主張していましたが、こうした見方に対してどうお考えですか。
ダニ・ロドリック米ハーバード大学ケネディ行政大学院教授(以下ロドリック氏):いわゆる「グローバリゼーション」は、必ずしも衰退していないとしても、減速している側面はあると思います。
例えば、世界金融危機以前、世界の貿易はほぼ一貫して世界全体のGDP(国内総生産)、すなわちグローバルGDPの成長率より速く増加する傾向にあり、貿易のグローバルGDPにおける比率は時間とともに上昇する傾向にあったということが1つの指標になると思います。
しかし、2008年秋の世界金融危機以降はそうではなくなりました。一般的に、世界の貿易はグローバルGDP成長率にかろうじて追いついている程度で、時に減速しています。
対外貿易への依存度を減らしている主要国もあります。中国はGDPにおける貿易の割合が大幅に減少し、より内向きの国になっています。中国ほど極端ではありませんが、同じことがインドでも起こっています。このような、グローバル化の進展が鈍化していることを示唆する定量的な指標があります。

「グローバリゼーション」は1つではない
しかし、私は、単に従来の意味でのグローバリゼーションの拡大・縮小を論じるのではなく、グローバリゼーションの本質、一体どのようなグローバリゼーションであるべきなのかについて、もう少し違った角度から考えたいと思っています。グローバリゼーションと一言で言ってもさまざまな種類があり、そのありようが大きく異なるからです。
例えば、国際資本移動や国際貿易、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界貿易機関(WTO)などを中心とするグローバリゼーションはその1つです。通常私たちが思い浮かべるグローバリゼーションとは、これですね。
この種のグローバリゼーションを、ロドリック教授は「ハイパーグローバリゼーション」(注1)と定義していますね。そしてハイパーグローバリゼーションは終焉(しゅうえん)した、と主張されています。
ロドリック氏:通貨や貿易といったものでなく、気候変動に関する協定や公衆衛生に関する協定を軸にした、別のグローバリゼーションもあり得るということです。つまり今、何をグローバリゼーションと見なすかということについて、我々の「マインドセット」に重要な変化が起こったのです。
政策立案者はますます国内経済を優先させるようになり、グローバル経済をどのように国内目標の達成に役立たせるかを考えるべきだと主張するようになっています。しかしそうではなく、グローバル化の要求に対してどのように国内経済を適応させるか、を考えるべきです。
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