世界を震撼(しんかん)させた安倍晋三元首相の銃撃事件。国内はもとより、世界に広がる大きな反響に、戸惑いを覚えた日本人も多いのではないか。安倍元首相の死がもたらした多大な反響の理由を、日本政府でアドバイザーを務めたこともある公共外交、説得の専門家、ナンシー・スノー氏が寄稿した。

フィリピン・マニラの大使館で記帳する来訪者(写真=AFP/アフロ)
フィリピン・マニラの大使館で記帳する来訪者(写真=AFP/アフロ)

 米広報文化交流局(United States Information Agency:1999年に米国務省に統合された対外広報機関)に勤務していた92年、筆者は(故・安倍晋太郎元外務大臣の名を冠した)新しい安倍フェローシップ・プログラムの担当者を務めた。それから30年後の2022年、米ニューヨーク州北部にあるウェグマンズというスーパーマーケットのレジ係が、「あのアベ(首相)はいい人だったね」と哀悼の意を表すのを耳にした。

 筆者が「フルブライト米国人招へい講師プログラム」による教授として、また安倍フェローとして日本で過ごした時期は、第2次安倍内閣(2012~14年)と重なる。そして銃撃事件が起こった2022年7月8日は、国民感情と世界への影響という面で、米国でケネディ大統領が暗殺された1963年11月22日と極めて似ている、と筆者は考える。

 安倍元首相の死は、当然ながら政治家たちに大きな衝撃を与えた。だが筆者には、安倍元首相の努力によって日本の世界的地位が向上したことに初めて気づき、世界中の人々が毎日、哀悼の意を表明し続ける様子が最も印象的だった。

 安倍首相が亡くなった日、筆者はインドのニューデリーからニューヨーク、英ロンドンからドイツのボンまで、実に17時間にわたって海外メディアのインタビュー要請に応じることになった。海外メディアは安倍元首相のレガシー(遺産)、つまり日本国内だけでなく、世界に与えた影響について知りたがっていたのだ。

 日本人の読者の中には、世界における安倍元首相の影響力の大きさに驚いた人もいるかもしれないが、私は決して驚かなかった。安倍元首相は、生涯にわたって慢性疾患を抱えていたにもかかわらず、並外れたエネルギーで世界を説得できる卓越した指揮者であった。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2009文字 / 全文2910文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、11年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「グローバルインテリジェンス」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。