
人々を取り巻く社会課題の多くは、経済学で議論されている「社会的ジレンマ」という概念で説明ができる。社会的ジレンマとは、人々が互いに協力をすれば皆が幸せになる一方で、個々人にとっては利己的に行動することが最もお得である状況のことである。
人々のエネルギー契約行動、例えば電力会社との契約時に、環境に優しいが値段の高い再生可能エネルギーを進んで選択するどうかは環境問題に関するジレンマである。
国レベルの対応にも横たわる「ジレンマ」
また、新型コロナウイルス禍における政府の自粛要請発令時に、他の人への感染等を防ぐために外出を控えるなどの行動自制や、集団免疫達成に貢献するワクチンを接種するかどうかもジレンマの一例と考えられる。「個人」の意思決定のみならず、「国」レベルの行動、例えば気候変動に対する国際協調への対応も、国を意思決定主体と見た場合のグローバルなスケールでのジレンマと捉えることができる。
これらの例について、2017年にノーベル経済学賞を受賞した、米シカゴ大学経営大学院のリチャード・セイラー教授が、2021年10月5日に開催された日経ビジネスLIVEのなかでちょうど議論していた。「ナッジ」がその解決に有効である一方で、ナッジなどインフォーマルな方法で解決できない場合は、行動規制や罰則が必要ではないかと指摘したのである。
本寄稿では、社会的ジレンマが深刻な場合には、一定割合の人々は正式な罰則制度の導入を好む、と示した筆者の研究を紹介する。併せて、罰則制度が導入される際の民主主義が果たす役割も議論する。セイラー教授は、前述のウェビナーで、ジレンマ解決には社会への「信頼」も重要であり、人々が政治に関与できる民主主義が鍵だと言及している。
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