中国出身の気鋭の経営学者、ジャクソン・ルー米マサチューセッツ工科大学(MIT)准教授は、日本人、中国人、韓国人といった東アジア系は、インド人のような南アジア系に比べ米国の組織でリーダーになりづらい理由を深く探ってきた。東アジア系の人々は他の人種よりも強く同質性を好むため、リーダーになりづらいと主張する。ルー氏に解説してもらった。

東アジア系が米国の中で出世しづらいという「竹の天井」を検証した研究(注:2020年7月17日掲載「米国で東アジア系がインド人より出世できない理由」参照)の続編(注)を発表したそうですね。エスニックホモフィリー(同じ民族同士でつながりたがる傾向)が、東アジア系の人は南アジア系の人をはじめほかの民族より相対的に強いということです。これはどういうことですか。
ジャクソン・ルー米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院准教授(以下、ルー氏):英語にこんなことわざがあります。「類は友を呼ぶ」(Birds of a feather flock together)。古くからある言葉で、社会学研究でよく使われる概念です。つまり、人には住んでいる場所を問わず、自分と同類だと感じる人間同士で集まる傾向があるということです。
人間なら誰にでもある「似た者同士で群れる傾向」
ですからエスニックホモフィリーは、東アジア系だけの特徴というわけではありません。人種の多様性の高い環境、例えば米国のような環境では、どこに行っても多様な人種が暮らしています。見た目で黒人、白人、東アジア系の人、南アジア系の人と大体分かります。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院准教授

人種を問わず、人は見た目が似ている人を見かけると、ひょっとしたら自分に対して親切にしてくれるのではないかと無意識に反応して、その人に近づく傾向があるのです。
白人は白人同士で親しくなりやすい傾向がありますし、黒人はもちろん、南アジア出身の人も南アジア系の人と友達になりやすい。すべての人種にそうした傾向があるのですが、東アジア系の人はその傾向が一番強いということが、私の研究で確かめられたのです。
確かに、日本、韓国、中国と自国にいるときは互いに距離があるのに、国外に住んでいると国籍を超えて東アジア系だけで集まるのが不思議な気はしていました。アジアの物を扱う小売店や市場でも、東アジアの様々な国の商品がごちゃごちゃで売っていたりとか。
ルー氏:例えばあなたが、MITスローン経営大学院のような米国のビジネススクールに入学し、初登校したとしましょう。あなたは、キャンパスに1人も知り合いがいない。そこでアジア系の学生を見かけると、見た目が似ているから、あの人なら私の考え方などを理解してくれそうだ、友達になろう、と無意識に行動するのです。
米国のような多様性の高い環境では当然ながら、リーダーになるためには自分と違う人種の人々ともしっかりつながる必要があります。エスニックホモフィリーが強く、仲間内だけでつながっているような人では、グループ全体の利益の代表になれないのです。
だから米国では選挙のときも、候補者は自分がたとえ白人であっても必死にスペイン語を使い、自分はラテンアメリカ人の利益に関心を持っているという姿勢をアピールするのです。
すると今回の研究は、東アジア系のエスニックホモフィリーが米国で出世、あるいはリーダーになる上で妨げになっているという結論ですか。
ルー氏:その通りです。例えば特にビジネススクールなどの学校では、東アジア系の人が好んで集まっている様子が目に付くのです。学校以外でも、例えば米国や英国でも中華街のような地域がたくさんありますよね。一方、インドタウンのような地域はあまり見られません。
英語能力のレベルや出生地を統計的にコントロールして、2世である場合などの影響を勘案して分析しても、つまり米国で生まれ育った東アジア系の人であったとしても、やはりエスニックホモフィリーが高いという結果が出ました。
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