ロシアのウクライナ侵攻が長期化の様相を呈している。この事変を「歴史的な転換点」と認識する識者が増える中、民主主義研究で知られる米スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド教授は「今回の侵略の結果が民主主義の将来を決める」と断じる。その真意を聞いた。

ウクライナでは激しい戦いが続いている(写真:AFP/アフロ)
ウクライナでは激しい戦いが続いている(写真:AFP/アフロ)

ロシアがウクライナに侵攻し、世界は歴史的な転換点にある、との指摘が増えています。民主主義の観点から今回の侵攻についてどう思われますか。世界の民主主義にはどのような影響があるのでしょうか。

米スタンフォード大学ラリー・ダイアモンド教授(以下、ダイアモンド氏):侵略の結果がどうなるかはわかりませんが、侵略の結果次第で、民主主義に与える影響が実質的に決まります。まずウクライナにとって今回の侵攻は国家だけでなく、同国の民主主義の存続を脅かすものであり、大変直接的な脅威です。あなたの質問は、それが地域や世界の民主主義にとってどのような意味を持つかということですね。

 ロシアのプーチン大統領が失敗すれば、「積極的な権威主義」体制が失敗することになると思います。プーチン氏と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、世界の民主主義国は弱く、無能で、決意がなく、自信がなく、簡単に脅かされ、敗北するという彼らのテーゼを証明する機会と考えていることでしょう。

 ですが、ウクライナとウクライナの背後にいる欧米がそうでないことを示せば、世界史の転換点となる可能性があると思うのです。

ラリー・ダイアモンド(Larry Diamond)氏
ラリー・ダイアモンド(Larry Diamond)氏
米スタンフォード大学政治学・社会学教授 1980年、スタンフォード大学で社会学の博士号(Ph.D.)を取得。米バンダービルド大学助教授などを経て現職。2004年にイラク連合国暫定当局の統治担当上級顧問としてバグダッドに赴任した。スタンフォード大学フーバー研究所およびフリーマン・スポグリ国際問題研究所シニアフェロー、民主主義・開発・法の支配センター元ディレクター。ジャーナル・オブ・デモクラシー誌の創設者兼共同編集者。近著に『侵食される民主主義』(上下巻、勁草書房、2022年)がある。

「権威主義」の行方を決める分岐点に

 中国やロシアを中心とする権威主義的な政権がこれまで増してきた勢いが逆転するのではないでしょうか。ウクライナの独立と民主主義を破壊しようとするプーチン大統領の野望を打ち砕くことで、世界に民主主義の新しい波が押し寄せる可能性があるのです。

 世界政治で起こることの多くは心理的なものです。イメージや物語、勢いなどです。ドイツ語のZeitgeist(ツァイトガスト)、つまり時代の精神という意味です。世界の「ムード」と言ってもいい。歴史的に世界がどこに向かっているのかです。

 15年間の「民主主義不況」の中で、多くの人々が民主主義は弱い、腐敗している、無能だ、自信がない、と考えるようになりました。権威主義のほうがより良いシステムなのかもしれないと。

 しかし、1億4000万人以上の人口を抱えるロシアの権威主義システムが、4400万人という明らかに数で劣るウクライナの民主主義に勝てない上に、それ自体が信じられないほど腐敗し無能であることが証明されたとしたら、権威主義と民主主義の間の競争の構図は変わります。

 ウクライナでの紛争の結果は、台湾の将来にとって非常に大きな意味を持つということも付け加えておきましょう。

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