これら大企業の多くを率いるのが、「プーチンのオリガルヒ」である。彼らは、例えばソ連崩壊後の混乱期に自らの才覚やエリツィン政権との際どい政治的駆け引きを介して財を成したボリス・ベレゾフスキー氏(亡命後2013年に原因不明の死去)や、ミハイル・ホドルコフスキー氏(現在亡命中)ら第一世代とは異なる人々である。血縁・地縁を介してプーチン氏と深くつながり、しばしば政府から大企業へ送り込まれた第二世代である。

 その中にはソ連時代の国家保安委員会(KGB)や内務省などの治安機関出身者が含まれている。プーチン氏と格別に親密な彼らは、その出身から「シロビキ」と呼ばれる。

 シロビキは、表2に登場するロスネフチ、ロステク、VTB、トランスネフチという超巨大企業に加え、各種報道機関をも実効支配し、プーチン氏の権力基盤を陰に陽に支えている。

 財界でのオリガルヒの跋扈はプーチン氏との結託に裏付けられており、同時にプーチン氏の威勢は彼らの産業支配によって維持されている。実に大掛かりなもたれあい構造がこの国では公然と成立しているのである。

 こうした経済構造は典型的な「縁故資本主義」(クローニー・キャピタリズム)であり,故に最近ではプーチン氏の国民経済に対する政策的関心は薄れ、オリガルヒとの結託関係の維持に視野が狭窄(きょうさく)されていた可能性は高い。うがった見方だが、このたびの外資系企業資産接収命令も、国民向けというよりむしろ今回の事態にいら立つオリガルヒのなだめすかしが目的なのではないか。

 3月8日、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は、米議会の公聴会で、プーチン氏は「第三者の視点や彼の見解に異議を唱えたり疑問を投げかけたりする人から隔離」された状況の中で、「狂ってはいないが極端に扱いにくい」人物へと変貌し、独善的にウクライナ侵攻を決めたと発言している。これは、われわれの見解と大いに整合的である。

 ウクライナへの軍事侵攻はさまざまな形でロシア経済に大打撃を及ぼすことは自明なのだが、国家とオリガルヒの産業支配をバックとするプーチン氏にとって、市民生活の疲弊や国内経済の低迷という政策リスクはさほど重要な意味を持たないことが、このたびの蛮行を呼び起こしたといえる。「ロシアを核とした超大国の復活」という自身の無謀な野望を優先した、ロシア市民と経済を軽視した決定に他ならない。

リーマン危機とクリミア併合から見る未来

 さて、国際社会がロシアに対してこぞって打ち出している一連の制裁措置は、石油・ガスや非鉄金属を主体とする輸出活動の縮小、輸入品の不足や値上がり、ルーブル急落による物価の高騰、ロシア進出外資系企業の活動縮小や停止、大規模反戦デモや反政府ストライキなどを誘発する。

 ロシアの経済活動と市民生活を混乱に陥れるのは疑いないし、その予想は既に一部現実化している。こうした社会経済の変動は、一般民間企業のみならず、オリガルヒのビッグビジネスにも大きな打撃をもたらすであろう。

 今後のロシア経済の行方を考えるには、世界金融危機とクリミア併合後の経済動向が参考になる。いずれの場合も原油価格の急落がロシア経済を直撃したわけだが、前者は金融市場の崩壊に起因したのに対して、後者はシェールオイルの増産などで原油の需給バランスが崩れたこと、原油市場での投機的な動きが米国の金融正常化過程で弱まったことが原因である。

 いずれにしても原油価格の暴落は、輸出の過半を石油と天然ガスに依存するロシアの通貨ルーブルの減価と輸入インフレをもたらして景気を後退させた。

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