企業は何のために存在するのか――。行き過ぎた株主第一主義や短期の利益追求を見直す機運が高まり、世界の経営者がESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)に目を向けている。「Business as a force for good(善に導く力としてのビジネス)」を掲げる仏ビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)のイリアン・ミホフ学長に経営者の役割などについて話を聞いた。

イリアン・ミホフ(Ilian Mihov)氏
イリアン・ミホフ(Ilian Mihov)氏
INSEAD(欧州経営大学院)学長。1992年米南カリフォルニア大学で経営学学士(BSc)取得後、米プリンストン大学で当時教授だったベン・バーナンキ氏(後に米連邦準備理事会議長)に師事。96年経済学博士号(Ph.D.)取得。専門は金融政策、マクロ経済学、経済成長論。96年INSEAD助教授、2000年准教授、07年教授。13年から現職。23年2月までシンガポール経済開発庁(EDB)のボードメンバーを務めたほか、国連で数々の要職を歴任。ブルガリア出身。

最近、我々の社会生活の中でもビジネスの世界でも、サステナビリティー(持続可能性)と幸福度が話題になっています。企業の役割は変わりつつあるのでしょうか。

イリアン・ミホフINSEAD学長(以下、ミホフ氏):INSEADはビジネスと社会に焦点を当てています。学長に任命された1年後の2014年にBusiness as a force for goodという理念を打ち出しました。今日、多くのビジネススクールがその方向に進もうとしていますが、社会や環境について考えなければならないというこの信念は、INSEADの文化に既に深く根付いています。

 経営者は確かに会社のために価値を創造すべきで、利益を最大化する必要があります。しかし、今日の世界では、それだけでは十分ではありません。環境や社会に対してどのような影響を与えるか、従業員の福利厚生はどうなっているのか。サプライチェーン(供給網)はどうなっているのかも考えなければなりません。

 INSEADでは17年に「ビジネスと社会」のコースを作りました。そこで、全員に必修の倫理コースを設けました。人がどう意思決定するのかを振り返る内容です。正解はありません。しかし決断するとき、その意味するところを広い意味で考えるよう気付きを与えるのが狙いです。

決断が後々もたらす結果を考えない人々

 人が悪いことをするのは、多くの場合、彼らが悪いというより、深く物事を考えていないからだと思います。自覚がないのです。その決断がもたらす結果について深く考えていないのです。だから、自分の決断が及ぼす影響について意識を高めることはとても重要です。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り4315文字 / 全文5223文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「グローバルインテリジェンス」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。