この2つの効果に加え、税率引き上げ前後に大きな変動をもたらすのが、矢印③で示す「支出タイミングの裁定効果」である。異時点間の代替効果と同じく、税率引き上げ前に「お得に」買い物ができることから発生する効果だが、こちらは消費ではなく「支出」に関する効果である。消費税率引き上げ直前は、すぐには使用しない財の買いだめ(いわゆる「駆け込み需要」)が発生し、税率引き上げ実施後には「反動減」が発生する。

「買いだめ」をもたらすメカニズム

 駆け込み需要・反動減は消費税率の変動がもたらす(短期的には)最も大きな影響であるにもかかわらず、その発生メカニズムは完全には解明されていなかった。それに対し、キャシン氏と筆者は、最新の論文で「支出タイミングの裁定効果」による財の備蓄スペースの広さ、耐久財を購入する手間の大小などで、消費税率引き上げに対する反応を説明できることを示した。

 その結果が図2であり、耐久財(テレビや洗濯機など)・備蓄可能財(トイレットペーパー・洗剤など)・備蓄不可能な非耐久財それぞれの消費税率引き上げ実施前後の動きを示している。単純に言えば、グレーの実線が「現実のデータ」であり、丸の付いた点線が計算された「理論値」である。耐久財・備蓄可能財ともに、理論値がかなりの程度データの動きを捉えており、駆け込み需要の発生メカニズムを解明したことを示している。

 この結果に基づけば、3%程度の税率変更は、耐久財や備蓄可能財への支出を引き上げ直前に最大20%増加させ、消費全体でも6%程度増加させる効果がある。ただし、引き上げ実施後大きな反動減を生み出し、長期的には消費に影響がなくなる。しかも、3カ月程度で通常の消費水準に戻っており、影響は短期的なものにとどまることも確認できた。

図2 消費税率引き上げ前後の消費の変動(2014年4月のケース)
図2 消費税率引き上げ前後の消費の変動(2014年4月のケース)
出所:Cashin, David, and Takashi Unayama, 2021. “The Spending and Consumption Response to a Vat Rate Increase.” National Tax Journal 74 (2): 313–346.のFigure 5から引用。「モデル」とある線は、理論的に計算された消費税率引き上げに対する消費の反応、γjy,mとラベルの付いた緑の線は季節性などを調整した実際の消費データ。
[画像のクリックで拡大表示]

 最後の「時点内の代替効果」とは、耐久財に関する駆け込み需要に伴って発生する副次的な効果である。たとえば、駆け込みでテレビを追加的に購入すれば、電気代が増加するかもしれない。逆に、最新式のエアコンを買うことで省エネ性能が高まり、電気代が減少するかもしれない。それは理論上は存在するはずの効果であるが、変化の方向は明らかでなく、規模も大きくないと考えられるため、図1ではこの効果は矢印では図示していない。

消費税減税、効果の見積もり

 この経済学の枠組みを使って、消費税率を一時的に引き下げた場合に起きる反応について考察してみよう。現実に消費税率を引き下げるなら、社会保障の財源の確保、再分配への影響、代替的な政策との比較など議論しなければならない論点は多いが、ここでは消費刺激効果だけに注目する。

次ページ タイムリーな分析の落とし穴