
家計消費の回復が遅れている。新型コロナウイルス感染拡大が落ち着いていた昨年後半ですらも、力強い回復は見られなかった。長期の消費活動の自粛に対する「リベンジ消費」への期待が外れる状況が続いている。
18歳以下および低所得者への10万円の給付がまだ完了していないこともあり目立たないが、いずれ強力な消費刺激策を求める国会や世論の声が強まるだろう。その選択肢として、根強い人気があるのが消費税率引き下げである。
景気回復のための消費税減税
2021年の衆議院選挙では、野党各党が消費税率の引き下げを公約にした。また、海外でも、ドイツが2020年7月から12月末まで付加価値税を引き下げたのをはじめ、コロナ禍の中で多くの国が景気回復のための付加価値税率の引き下げを実施している。
与党が勝利したため議論は盛り上がらなかったが、消費の停滞が続けば議論が再燃する可能性はある。今後の政策論議のためにも、消費税率引き下げが消費にもたらす影響を検討しておくことは有用であろう。
筆者はこれまで、米連邦準備理事会(FRB)のデービッド・キャシン氏とともに消費税率の引き上げが消費に与えた効果について分析してきた。その分析に基づき、時限付きの消費税率の引き下げがもたらす影響を考察する。
消費税率変更の4つの効果
消費税減税の効果を考える根拠として、まず経済学で消費税率の変更の影響がどのように分析されてきたかを見てみよう。現代のマクロ経済学では、消費の動きは「ライフサイクル仮説」で説明される。それは、家計が現在から将来にかけての所得に基づき「生涯可処分リソース」を計算し、できるだけ一定のペースで支出するように消費しているという理論だ。消費税の影響も、この枠組みがベースとなる。
筆者らはこれまでの研究で、消費税率の変更が家計支出に与える影響は4つの効果に分解できることを示し、それぞれの効果を「所得効果」、「異時点間の代替効果」、「支出タイミングの裁定効果」、そして「時点内の代替効果」と呼んできた。これら4つの効果は、税率の変更がアナウンスされた時点と実際に税率が変更される時点の2時点の前後で別々に発生する。図1は、それぞれの効果による消費の反応のイメージを示したものだ。
矢印①が「所得効果」である。これは、税率の変更により生涯の可処分リソースが変化することで発生する変化である。増税の負担に応じて消費水準が切り下げられる。たとえば、2012年に可決された消費税法の改正では、最終的に消費税率を5%から10%に引き上げることを決めていた。これは将来にわたり実質所得を約4.5%低下させ、また消費を同程度低下させる(図のグレーの線)。
矢印②が示すのは「異時点間の代替効果」だ。簡単に言えば、物価が安い時点で多めに消費しようとする行動を捉えた効果である。税率引き上げ実施までは物価の安い「お得な期間」であり消費を多めに、引き上げ実施後は多めに使った分を取り戻すために少なめに消費する。
2つの矢印は、それぞれの時期での効果を図示したものである(図の点線)。ただし、キャシン氏と筆者の研究の結果、この効果は日本では小さいことが分かっている。
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