
目下、世界中で半導体業界の動向に注目が集まっている。これは、米中対立や半導体不足対処などといった経済安全保障の視点と、データ活用型の新成長という成長視点――その基礎としての半導体――という2つの視点、両者の重なりによる。
日本で大きな話題となっている半導体受託生産会社(ファウンドリー)世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の工場誘致については、注目の重心が経済安保側にあることは読者もお気づきの通りだ。だが、成長力への貢献度は実はまだ不透明だ。筆者は、まずここからひもといていきたい。
TSMC熊本の位置づけ:経済安保か成長か
TSMCの熊本製造ラインは、回路線幅が22~28ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を製造する。国内ではこの世代のロジックチップ(論理演算回路)を生産できる工場はない。TSMCにおいては台湾に以前から存在するラインであり、既にそこで採用されている製造装置や材料メーカーが優先取引先の候補になるはずだ。
よって新規参入の余地はあまり大きくなく、単価が最も大きいのは、露光分野で世界最大手であるオランダASMLの液浸露光機(*)ということになる。液浸露光機は今、露光機の中で一番使われているものだ。ちなみに日本ではニコン、キヤノンが造っている。
他方、TSMC熊本(予定)からのIC出荷先で見ればソニーグループ向けが最大だ。大口需要の存在が熊本に進出するに当たっての第1要件である。政府補助は従来の自然なルート、すなわちソニーとTSMC台湾工場で成立していた取引の一部を日本国内に工場を置く形で、安定的に確保しやすい形へと転換させるのに必要なコストだったわけだ。
政府補助なくして本件があり得なかったという意味では、補助金の存在も重要だった。それは一見、ソニーという特定企業への間接補助にも見えるし、実際にそのような側面があったのかもしれない。もしそうだとしても、同社の半導体事業は日本における半導体産業の屋台骨の一つであり、妥当であると筆者は考える(金額の問題は残るが)。
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