新型コロナウイルス禍を経て、企業経営におけるサステナビリティー(持続可能性)やウェルビーイング(心身の健康や幸福)といった観点が一段と重視されつつある。なぜ今、ウェルビーイングが経済や経営の大きなテーマとしてクローズアップされているのか。米スタンフォード大学の心理学者で、リーダーのメンタルヘルスやリーダー養成手法について積極的に見解を発信しているスティーブン・マーフィ重松氏に話を聞いた。

(聞き手は広野彩子)

スティーブン・マーフィ重松氏
スティーブン・マーフィ重松氏
米スタンフォード大学ハートフルネス・ラボ創設者
心理学者。アイルランド系米国人の父と日本人の母の間で、日本に生まれ米国で育つ。米ハーバード大学大学院で臨床心理学博士号(Ph.D.)を取得。東京大学で教壇に立った後、米国に戻り米スタンフォード大学教育学部客員教授、医学部特任教授。米国をはじめ欧州、日本を含むアジアの様々な組織でハートフルネスの原理と価値観に基づくプログラムを提供。著作に『スタンフォードの心理学授業 ハートフルネス』(大和書房、2020年)など。(写真は稲垣純也、以下同)

2022年に入って以降、実業界でもウェルビーイングやポジティブ心理学などへの関心が急速に高まっている印象があります。

スティーブン・マーフィ重松 米スタンフォード大学ハートフルネス・ラボ創設者(以下、マーフィ重松氏):22年10月末に都内で開催された米日カウンシル年次総会でリーダーシップについてのセッションに参加しました。そこでモデレーターが「VUCA(予測不可能な状態)」という言葉を紹介しました。これはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものです。

 私は2000年ごろから米軍で働いていたことがあり、その時に初めてVUCAという言葉を知りました。米軍が、世界が大きく変化したためもう同じ戦略には頼れないという意味でこの言葉を使っていました。

 これが広がり、「VUCAな世界だから、今までのやり方を変えなければいけない」という考え方が一般的になってきました。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、人々が死や様々な「喪失」に直面したことで、より心を開くようになったためではないかと思っています。

 VUCAはもともと米国陸軍の用語です。陸軍士官学校がこの言葉をつくりました。私は今、日本企業で、独自の「リーダーシップのVUCAモデル」を使って研修を展開しています。今の状況にふさわしい新しいVUCAモデルを考えたのです。

新しいVUCAが意味すること

戦うことを目的とする軍隊用語VUCAとは違うというわけですね。企業人が知るべき新VUCAはどういうものなのでしょうか。

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