ジム・コリンズという経営思想家の魅力の1つは先見性だ。「企業の目的は株主価値の最大化ではない」と言い切り、偉大な企業の原動力はビジョンだと指摘したのはおよそ30年前のことだ。ステークホルダー資本主義への転換が叫ばれ、パーパス経営が注目される現状をどう見ているのか。ベストセラー『ビジョナリー・カンパニー ZERO』の共著者であるジム・コリンズ氏に聞いた。
(聞き手は本誌編集長・磯貝高行、翻訳家・土方奈美)

米国の主力企業経営者をメンバーとする団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が2019年、「企業はあらゆるステークホルダーに責任を負う」と宣言し、株主至上主義からの転換として話題を呼んだ。株主価値最大化が企業の目的といわれていた30年前に、『ビジョナリー・カンパニー ZERO』の旧版(日本語未訳、コリンズ氏の初著作)で「利益よりビジョン」と主張したのは革新的だった。

ジム・コリンズ氏(以下、コリンズ):この点については、研究パートナーであり、ビジョナリー・カンパニー1作目の『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』の共著者であるジェリー・ポラスの功績を指摘したい。私の知るかぎり、「利益を超える企業の目的」という概念を最初に提唱したのはジェリーだ。今日では当たり前のようだが、30年前の世の中の反応は「とんでもない」というものだった。ジェリーと共同研究ができた私は幸運だった。

<span class="fontBold">ジム・コリンズ</span><br>『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(Built to Last、ジェリー・ポラスとの共著)をはじめとする世界で1000万部超のロングセラー『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの著者。米コロラド州ボールダーの研究ラボを拠点に四半世紀以上にわたって偉大な企業を研究、経営者から絶大な支持を集める。2017年には米フォーブス誌の「現代の経営学者100人」にも選出された。著書に『ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則』(Good to Great)、『ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階』(How the Mighty Fall)、『ビジョナリー・カンパニー④ 自分の意志で偉大になる』(Great by Choice、モートン・ハンセンとの共著)<br/>(写真:George Lange)</a>
ジム・コリンズ
『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(Built to Last、ジェリー・ポラスとの共著)をはじめとする世界で1000万部超のロングセラー『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの著者。米コロラド州ボールダーの研究ラボを拠点に四半世紀以上にわたって偉大な企業を研究、経営者から絶大な支持を集める。2017年には米フォーブス誌の「現代の経営学者100人」にも選出された。著書に『ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則』(Good to Great)、『ビジョナリー・カンパニー③ 衰退の五段階』(How the Mighty Fall)、『ビジョナリー・カンパニー④ 自分の意志で偉大になる』(Great by Choice、モートン・ハンセンとの共著)
(写真:George Lange)

 共同研究では2つの成果が得られた。第1に実証的研究を通じて、真のビジョナリー・カンパニーには単にお金を稼ぐという以上の大きな目的があると証明できたこと。つまり「永続性のある真のビジョナリー・カンパニー」という土台となる概念をジェリーが生み出し、共同研究によってそれを裏付けるエビデンスが得られた。「企業にとって利益よりも大きな存在目的がある」というのは非常に優れた洞察だが、当時はそんなものはないという見方が圧倒的だった。

 2つめの成果は、バリュー(価値観)、パーパス(目的)といった捉えどころのない概念を具体化するための体系的アプローチを提示したことだ。シリーズ最新刊の『ビジョナリー・カンパニー ZERO』にも示した「ビジョンのフレームワーク」だ。そのなかで「企業はコアバリューやパーパスを維持すると同時に進歩していく」という偉大な企業特有の二面性も明らかになった。この両立は極めて困難だが、あらゆる企業、組織、社会に求められていることでもある。

なぜ株主価値からパーパスへの力点の変化が起きているのか。

コリンズ:人間には自らの人生、仕事、クリエーティビティーを価値あるものに捧(ささ)げたいという根本的欲求があるためだろう。

 私にはもともと経営書を書くという目的があったわけではない。「偉大な会社を動かす原則は何か」という研究に取り組んだのは、偉大な企業の物語から透けて見える壮大で高邁(こうまい)な野心に惹(ひ)かれたからだ。たとえば盛田昭夫氏と井深大氏が第2次世界大戦後の焼け跡のビルでソニー(現ソニー・グループ)を創業し、真に偉大な製品を生み出して、世界における日本製品のイメージを刷新しようとした物語。あるいはボーイングが「707」を開発し、ジェット旅客機の時代を切り開いた英雄的物語だ。

 「偉大な企業への旅路を先導するのはどのような人物なのか」という問いと向き合うなかで、「何か意義のある偉大なことをしたい」という人間の心の奥深くにある欲求に気づいた。私の著書は日本で『ビジョナリー・カンパニー』というタイトルで刊行されている。「サクセスフル(成功している)」でも「プロフィタブル(収益性の高い)」でも「リッチ(資金のある)」でもなく、「ビジョナリー(ビジョンがある)」であることが永続する偉大な会社の条件だ。

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