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 これまで「守り」「攻め」のDXについて説明してきました。デジタル産業革命において、この2つの対策は王道といえます。

 しかし、人間はバランスを取る生き物でもあります。デジタル化が進めば進むほど、人は人とのコミュニケーション、大自然との関わりや人間らしさを求めるようになります。そこに第3の可能性が生まれます。

 自然豊かな環境でのアクティビティー、自然環境に配慮した有機野菜の栽培、自分の身ひとつでできるスポーツや趣味など、挙げればキリがありません。

 筆者の知人は沖縄でツリーハウスを造っています。彼は世界を旅する中で、ツリーハウスホテルの存在を知り、日本初のツリーハウスのホテルチェーンとして上場しようと奮闘しています。

 実際に沖縄の大森林の奥地にあるツリーハウスは素晴らしいの一言です。川のせせらぎを聞きながら、朝、目覚めて、ツリーハウスで味わうコーヒーのおいしさは格別です。奥地のため、携帯電話の電波すら入りません。こんなゆったりと癒やされる空間は世界中でもそうはないでしょう。

 日本は世界に誇るべき資産が数多くあります。こんなにも安全で、安心して住める国はなかなかありません。食べものもおいしいし、教育水準は高く、まじめで勤勉な国民が多い。おもてなしの精神も普通に備わっています。

 日本独自の芸術や工芸品、お酒なども数多くありますし、神社仏閣など観光資源も豊富です。世界のどこと比較しても遜色ない大きな魅力を持った日本は、その強さを自身で再認識することでチャンスが大きく広がります。

 デジタル産業革命時代では、あらゆる業種業態がデジタルに対応しなければ生き残れなくなります。

 しかし、デジタル化すべきところと、すべきではないところがあるのも事実です。人間らしい生き方や感性と、常にバランスが取れているかを意識する必要があります。何をデジタル化し、何をアナログとして残すことが最も魅力が高まるのか。こうした観点も忘れてはいけません。

栄華を誇った強国も衰退している事実

 最後の対策、それはバッドシナリオが進んだ場合の選択肢です。日本の強みを最大限生かしていけば、決して将来を悲観的に考える必要はないのですが、それでもGAFAの影響力は依然として強いままです。この先、進んでいくデジタル産業革命においても、GAFAの存在は無視できないでしょう。

 かつて栄華を誇っていたギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルのような国々も、今では米国や中国の陰に潜んでいるのです。日本も長期の低迷期が続けば、衰退していく可能性もあります。

 GAFAの独占がデジタル産業革命でも続き、自国産業の力では勝てないと判断したら、勝ち馬に乗る選択肢も残しておく必要があります。

 日本は1900兆円という膨大な個人金融資産を有した国です。自国産業ではなく、このお金に働いてもらうのが最後の手段といえます。言い換えれば、投資です。この膨大な金融資産をGAFAに取って代わりそうな次のプラットフォーム事業者に大きく投資し、彼らが世界を制覇する利益を株主として得ていく手法です。

 この手法を取っている企業が世界には2社あります。1つはソフトバンクグループです。中国・アリババグループの約30%もの株式を持ち、大株主になっているのをはじめ、10兆円のソフトバンク・ビジョン・ファンドを組成し、世界のプラットフォーム事業者に次々と投資しています。

 もう1つが南アフリカのナスパーズです。中国・騰訊控股(テンセント)に投資して大成功したことで南アフリカ最大の企業にのし上がり、世界中のネット企業に投資しています。つまり、プラットフォーム事業者の株主になってしまえばいいという考え方です。

 世界のGDP(国内総生産)は約8000兆円あり、米国は約2000兆円、中国は約1400兆円、日本は約500兆円と、3カ国で世界全体の半分を占めています。そこへ割って入ってきたのがGAFAに米マイクロソフトを加えた「GAFAM」です。

 2021年1月末時点の時価総額を見ると、米アップルは約220兆円、マイクロソフトは約175兆円、米アマゾン・ドット・コムは約160兆円、グーグルの親会社である米アルファベットが約124兆円、米フェイスブック(現メタ)は約74兆円と、GAFAMの合計でなんと753兆円。単純比較はできませんが、日本のGDPを超える巨大企業群になっているのです。

 特筆すべきは、GAFAMのPER(株価収益率)は30倍とそれほど割高にはなっていない点です。

 あらゆる株式は一時的には割高、割安がありますが、歴史上は全ての銘柄が最終的にはPER17倍程度に収れんします。日本の上場したばかりのベンチャーのPERが数百倍になっているのは一時的なことですが、GAFAMの時価総額はかなりの規模に達しているにもかかわらず、そこまで割高でなく、しっかりと株価に見合った収益を上げているところが恐ろしい点です。

 さらに付け加えると、次世代のプラットフォーム事業者が続々と上場を果たしています。

 まず、テレビや映画業界に大きなインパクトを与えている米ネットフリックス。すでに時価総額は24兆円(2021年1月末時点、以下同じ)にも上ります。

 コロナ禍で業績も株価もうなぎ登りの、ビデオ会議ツールを提供する米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズも時価総額は約11兆円。ライドシェア世界最大手の米ウーバーテクノロジーズは約10兆円。2020年12月に上場したばかりの米エアビーアンドビーは約11兆円、オンラインフィットネス事業のペロトンが約3兆円と、次なるGAFAM候補が次々と生まれています。

(この記事は、書籍『ZERO IMPACT ~あなたのビジネスが消える~』の一部を再構成したものです)

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