前回の記事はこちら

 「守りのDX」の次にすべき対策は「攻め」のDXです。デジタル産業革命に備えて現在のビジネスモデルをトランスフォーメーション(変革)させていく必要があります。

 現在、GAFAが席巻している時代のさなかにあります。インターネットで覇権を取り、その後、リアルの世界に展開する流れが随所に見られました。

 米アマゾン・ドット・コムによる書店展開はその典型例でしょう。2015年11月、アマゾンは米ワシントン州シアトルで「Amazon Books(アマゾン・ブックス)」と名付けられた最初の書店をオープンしました。その後、全米で少しずつ店舗を拡大しています。

 この書店では「Kindleでいま最も線が引かれている本ベスト10」や「この町で最も読まれている本ベスト10」といった棚が設けられています。

 日本でも化粧品・美容の口コミサイト「@コスメ(アットコスメ)」を運営するアイスタイルが、実店舗「@cosme STORE(アットコスメストア)」を展開しています。2021年2月時点で国内22店舗、海外7店舗まで拡大しています。

 こうした流れが起きるのは当然といえば当然です。インターネットでの消費者の行動データは実店舗と比べ、極めて精緻に取得できます。どの商品が実際に売れているのかというデータはもちろんのこと、どの商品と一緒に購入しているのか、どの商品と比較しているのかといった様々なデータを大量に保有しています。そのため、オンラインからオフラインの世界に入っていったほうが成功確率は高いのです。

 一方、既存の小売企業がこぞってECに進出しても苦戦してしまうのは、リアルのデータをECに連動できていないからです。そもそも取得できているデータの範囲が狭いともいえます。今後、本格的に高速通信規格「5G」が普及し、IoT時代に突入すれば、あらゆるものがインターネットに接続されます。オフラインのデータを精緻に取得できるようになれば、戦い方も変わっていくでしょう。

 GAFAによって独占されたオンライン上のデータの世界で、日本企業がどれだけがんばってもできることは限られています。しかし、オフラインのデータの世界では、日本が一定の存在感を示せる余地は残されています。

 今後、センサーやチップがあらゆるハードウエアに搭載され、フィジカル(物理的)データを取得できるようになります。例えば、トイレの便器にセンサーやチップが埋め込まれると、用を足すたびに血糖値や尿酸値が計測できるようになります。

 椅子に座るだけで心拍数が分かったり、筋肉の状態をスキャンして今こっている部位を示してもらったりすることもできるかもしれません。

 すでに一部では実現されていますが、建設機械や重機にセンサーやチップを搭載すれば、どの重機がどこで、どのくらい稼働しているかもリアルタイムで把握できるようになります。あらゆるハードウエアから様々なデータが膨大に取得でき、そのデータを活用したビジネスが生まれます。

 市場規模を見ても、オンラインデータ市場よりも、オフラインデータ市場の方が大きく、その分、ビジネスチャンスがあるといえます。小売りの世界でECが急伸しているとはいえ、世界中のEC化率を見てもおよそ10~20%ほどで、将来的にも30%が上限ではないかといわれています。リアルで買い物をする市場の方が、残りの7割と圧倒的に大きいことになります。アマゾンや中国のアリババグループといったすでにインターネットの世界で覇権を握っている大企業が相次いでオフラインの世界に打って出ているのは、オンライン市場の成長が限界に近づいていることの表れでもあるわけです。

 実際、東芝やコマツ、SOMPOホールディングスといった企業はフィジカルデータに勝機を見出し、積極的な投資を始めています。東芝でCPS(サイバーフィジカルシステム)xデザイン部担当を務める上席常務の島田太郎氏は、近著『スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX』(島田太郎、尾原和啓/日経BP)で具体的にその戦略を披露しています。

 SOMPOホールディングスのグループCEO取締役で、代表執行役社長の櫻田謙悟氏も戦略の中心にDXを据えた経営者です。シリコンバレーで楢崎浩一氏を自ら説得してグループCDO(最高デジタル責任者)として招き、次々と事業を変革しています。2020年6月には米ペイパルの共同創設者、ピーター・ティール氏らが2004年に創業したデータ解析大手の米パランティア・テクノロジーズに5億ドル(約540億円)の出資を決めました。グループCDOの楢崎氏は、パランティア日本法人のCEOも兼任。SOMPOホールディングスのグループCDMO(最高データマーケティング責任者)兼グループCIO(最高情報責任者)、執行常務として、日本IBMでCDOを務めてきた尾股宏氏が就任しました。このように、一部の大企業はフィジカルデータ活用を主軸に事業の再構築に取りかかっています。

 フィジカルデータを取得できるのは、なにも製造業や保険業だけに限った話ではありません。アパレルであれば、洋服にタグを付けることで、顧客がどの洋服を試着室に持ち込んだか、その後、購入したか否かも把握できるようになります。

 また、フィジカルデータはセンサーやチップ以外にカメラでも取得できます。例えば、店舗に設置した無数のカメラにより、顧客がどの棚の前で止まり、どの商品を手に取ったのか。いったん手に取ったもののカゴには入れなかった商品、最終的に購入した商品は何だったのかといったことが全てデータ化できます。

 シリコンバレーで話題になり、日本にも昨年進出した「b8ta(ベータ)」は、まさにこうしたデータをメーカーに販売することで商売を成立させている新しいスタイルの小売店です。

 フィジカルデータの世界であれば、もともと小売業や製造業で力を持つ日本の力が有利に働く可能性が出てきます。まだまだ、世界で戦えるメーカーが日本には数多くあります。そのメーカーがフィジカルデータを武器に、デジタル産業革命時代の担い手になれば、日本再浮上の可能性が出てきます。

(この記事は、書籍『ZERO IMPACT ~あなたのビジネスが消える~』の一部を再構成したものです)

この記事はシリーズ「あらがうか、向き合うか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。