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 コロナ禍によって、多くの経営者がDX(デジタルトランスフォーメーション)に関心を示すようになりました。

 日本社会は突然、価値観のアップデートを迫られました。感染拡大を防ぐため、国民は非接触、非対面を求めるようになり、デジタルの重要性が一気に高まったためです。消費活動がデジタルに移行しているのですから、当然のこととして、企業もまたデジタルへのシフトを真剣に考えなければならなくなりました。

 2020年前半までは企業にDXの提案に伺っても門前払いが多かったのですが、コロナ以降は真剣に話を聞いてくれるようになりました。長引くコロナ禍で、DXの重要性を本気で感じた経営者が一気に増加した印象です。

 残念なことに年齢とデジタル力(知識)は反比例します。若者であればあるほど、デジタルツールに慣れ親しんでおり、抵抗感はほとんどありません。年齢が高いほど「デジタルがよく分からない」という人が増えます。

 これはある意味、仕方のないことかもしれません。生まれたときからデジタルがそこにあった世代と、途中からデジタルが出てきた世代では前提が異なります。

 ただ、企業という観点で見るとこれは致命的です。経営者の年齢は年々上がる一方だからです。帝国データバンクの調査によると、1990年の社長の平均年齢は54.0歳でしたが、2020年には60.1歳に上がっています。「失われた30年」と呼ばれる日本の停滞期に、経営者の高齢化が一気に進んだといえます。

経営者年齢別にみた成長への意識
経営者年齢別にみた成長への意識
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 これもまた、日本でDXが進まなかった大きな理由でしょう。デジタルを理解しない社長にDXの推進を迫っても酷というものです。すぐにでもデジタルをよく理解しているCDO(最高デジタル責任者)を設置したほうがよいでしょう。その場合、社長の役割はCDOの人選やDX部門の新設、そして既存部門からDX部門をしっかり守ることです。

 DX部門は往々にして、当初は赤字部門となります。既存部門からは当然のように煙たがられるし、足元の収益だけを考えると邪魔な存在でしかありません。しかし、企業として生き残るためには「DXは必要不可欠である」と唱え続けるトップの力強いリーダーシップが必要になります。

 同時に、CDOへの丸投げもよくありません。トップ自ら、最新のDX事情を学び、トレンドや要諦だけは押さえなければ重要な判断ができなくなります。

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