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 エネルギー分野でも無料化への流れが進んでいます。世界では太陽光、風力、水力、バイオマスや地熱など、再生可能エネルギーへの移行が急速に進んでいます。米大統領選で地球温暖化対策を政策の大きな柱として位置づけた民主党のジョー・バイデン氏が勝利を収め、第46代大統領に就任したことで、停滞していた米国も動き始めることが予想されます。

 再生可能エネルギーの発電にかかるコストは徐々に下がってきています。日本は2021年に東日本大震災から10年の節目を迎えました。壮絶な原子力発電所の事故を経験してもなお、資源の乏しい日本は原子力に頼り続けようとする動きが根強く残っていました。これまでの日本では、再生可能エネルギーの発電効率が悪く、結果的に単価が高止まりしていたからです。

 しかし、地球温暖化対策が世界中で求められるようになった今、ようやく日本政府も再生可能エネルギーを主力にするという方針を明確に打ち出しました。

 ここ数年、米大手IT企業、いわゆるGAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)のエネルギー業界での動きに注目が集まっています。再生可能エネルギーへの投資を拡大し、かつ電力消費者としても上位に名を連ねています。

 なぜ、GAFAはエネルギー領域に投資しているのでしょうか。

 それは、今後、彼らが提供するサービスの主要コストを電力が占めるためです。今でも、彼らが注力しているクラウドコンピューティングの最大のコストは電力ですし、ビットコインのマイニング(採掘)コストも電力に依存しています。次世代の自動車産業の主力になる電気自動車(EV)は動力源が電力ですから、電力のコストを抑えれば抑えるほど、提供サービスのコストを下げられ、競争優位性を手にできます。国内IT企業大手のソフトバンクグループや楽天グループもエネルギー事業に参入していますが、これらも同じ背景によるものと考えるのが自然でしょう。

 世界の時価総額ランキングでも常に上位をキープしている米テスラは単に電力を消費するだけでなく、エネルギーを自ら作り、蓄電し、利用するという三位一体戦略を打ち出しています。テスラは再生可能エネルギーの企業を買収して傘下に入れています。

 同社は2020年春、家庭で蓄電できる「Powerwall(パワーウォール)」を日本でも販売し始めました。太陽光発電システムで作られた電気を自宅でためておくことができ、太陽エネルギーによるクリーンな電力を、昼だけでなく、 夜間も利用できます。

 また、地震や台風などの災害時に停電が発生してしまった際には、非常用電源としても機能するため、安心して一年中暮らせるとしています。

 テスラが目指す世界が実現すると、私たちの家庭一つひとつが発電所になるのです。日本でも35年には約4000万台のEVが各家庭に普及するという予測があります。自宅の屋根にソーラーパネルを設置し、太陽光で発電した電力をEVや蓄電池に蓄え、それを自宅で使い、余ったら電力会社に売電できるようになります。

 エネルギー関連のキーワードに3つの「D」があります。いわゆる温暖化対策の「Decarbonization(脱炭素化)」、スマートグリッドやデジタルメーターなどの「Digitalization(デジタル化)」、そして筆者が一番重要だと考えている「Decentralization(分散化)」です。

 この分散化は、前述したような各家庭での発電の発想に通じるものですが、電力を地産地消するようになるということです。これまでの電力供給体制は、大規模な発電所を建設し、そこから各家庭に配電していました。つまり「Centralization(中央集権化)」でした。

 これから、簡易で小さな発電所がそれぞれのエリアで造られ、その電力をそのエリアで蓄え、消費するようになります。その発電所の最小単位が各家庭になるということです。

 ちなみに、筆者は個人でバイオマス発電に投資しています。バイオマス発電は、不要になった森林の木などを燃料に発電するものです。

 これまでのバイオマス発電は建設に莫大な資金が必要で、しかも大量の原材料が必要でした。結果的に日本国内だけでは原材料の確保が難しく、海外に頼るという本末転倒の結果になっていました。テクノロジーの進化により、安定稼働できる小規模発電プラントの開発に成功したことで、今後、地産地消を実現できるようになります。

 1つのプラントにかかる投資額は10億円程度。発電したエネルギーの売電も含めると、年率10%近くのリターンを得られるようになります。例えば、各自治体がこのプラントを10億円で導入すれば年1億円の収入が上がり、約10年で投資が回収できることになります。

 全国に広がれば、各自治体の収益だけでなく、自然環境保護にもつながります。これも3つの「D」の分散化「Decentralization」の例です。バイオマス発電以外にも、地熱や風力、水力、太陽光などそれぞれの再生可能エネルギーの分野でテクノロジーの進化が続けば、より分散化の流れは加速するでしょう。

 これからのエネルギー産業において、再生可能エネルギーが主役であることは間違いありません。そして再生可能エネルギーの究極の価値は、発電のための燃料となる資源がコストゼロであることです。

 太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱など、基本的には自然界に当たり前に存在しているものです。発電装置にはもちろんコストがかかりますが、それもテクノロジーの進化によって効率化が進み、コストゼロに近づいていきます。エネルギーを使わない産業は存在しません。世の中の全ての活動が、このエネルギーコストゼロ実現によって恩恵を受けることになります。

 日本はこれまで、石油や天然ガスなどの資源に乏しいことからエネルギー自給率は17年時点で9.6%にとどまっています。特に11年の原子力発電所の事故以降、発電のための資源輸入が増加しています。

 消費税を1%上げても2兆円ほどの歳入にしかつながりませんが、それよりもエネルギーコストゼロの影響のほうがはるかに大きいのです。社会や産業界に与えるインパクトは相当なものになります。

 電力のコストゼロ化が大きく影響してくる業界の中で、意外に思われがちなのが食に関わる産業です。飲食店や食材を販売している小売店、食品メーカーなどは、電力にかかるコストがボトルネックになっている産業です。

 人々の日々の生活を支える産業のため、食に関する産業は一年中、稼働し続けています。食材はその特性上、冷蔵、冷凍など温度管理のための電力が必要となりますし、24時間営業の飲食店チェーンの電力コストもバカになりません。考えただけでも、業界全体として多くの消費電力が必要なことが分かります。

 また、将来、路面栽培ではなく発光ダイオード(LED)照明などを用いた植物工場で野菜を育てることで、天候に左右されない安定した供給が可能になるとされていますが、LED植物栽培の最大のボトルネックも光熱費といわれています。もし電力コストがゼロに近づけば、こうした課題もクリアでき、人類の食糧事情に多大な影響を及ぼします。

 このように、単純にエネルギーコストが下がるだけでも、食産業全体、ひいては社会全体のコスト削減につながり、食品の提供価格も下げられるようになります。

(この記事は、書籍『ZERO IMPACT ~あなたのビジネスが消える~』の一部を再構成したものです)

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