不要になるものがある一方で、自動運転が普及するからこそ新しいビジネスも生まれます。まずは車中での過ごし方が大きく変わるはずです。

 例えば、音声認識技術の向上とともに、車内で様々な操作を指示できるようになるでしょう。「近くのお薦めのレストランを教えて」と話しかければ、AI(人工知能)が音声で店を提案してくれ、「予約して」と言えばそのまま電話がかかって予約でき、さらにはその店まで自動運転で連れて行ってくれるといったことも可能になるでしょう。

 自宅までの帰りの車中で誕生日のケーキとろうそくを注文して、家に着くころには配達されているといったことも実現可能かもしれません。車内がカラオケを歌ったり、映画を見たり、食事したりできる空間へと様変わりします。新たに生まれた時間の利活用を狙ったベンチャーが数多く出現するでしょう。

 アップルも自動運転車の開発を進めています。2014年くらいから噂は飛び交っていましたが、その後、米メディアのインタビューで同社CEOのティム・クック氏が公式に認めました。アップルは、iPod、iPhone、Apple Watchなど、消費者を魅了する商品を次々と世に送り出してきています。どのような自動車が発売されるのか、アップルファンの期待は高まるばかりでしょう。

宅配コストがゼロに近づく日

 自動運転車が普及すれば、宅配便の運転手も不要になりロボット宅配車が出現する可能性もあります。ロボットタクシー同様、無料化の可能性すらあります。

 宅配の場合、ドア・トゥ・ドアで配達できるか、荷物の大きさが一律でない中、自動での仕分けや梱包などができるか、といったクリアすべき課題はいくつもありますが、宅配コストがゼロになる影響は大きいため、世界中で挑戦する起業家が現れるでしょう。筆者は以前、中国第2位のEC大手、京東集団(JDドットコム)の無人自動倉庫を見学したことがありますが、当時の技術ではやはり完全無人化は実現できていませんでした。

 仮に宅配コストがゼロになったとしたら、どのような影響が考えられるでしょうか。一番恩恵を受けるのはEC事業者でしょう。現在は送料を有料化している事業者が大半ですが、そのコストがゼロになればECの利用者は格段に増えます。自社で配送コストを一部負担している事業者にとっては、さらなる付加価値サービスに投資を振り向けることができるようになります。

 フリマサービスを提供するメルカリや、地域情報サイトを運営するジモティーでは、現在でも利用者間で数百円前後の少額の中古品が売買されています。ただし、少額であればあるほど、送料の負担は相対的に大きくなります。宅配コストがゼロになれば、送料が障壁となって出品できなかった数多くの物品が流通し始め、現在、小売全体の10%程度でしかないEC化率がさらに高まっていくでしょう。

 つまり、ECにとって最大のボトルネックである「モノを運ぶ」という物流の課題が解決されるインパクトは、とてつもなく大きいということです。

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