前回の記事はこちら

 以前、ある大手証券会社のトップが「コロナ禍の影響は大きい。今や個人の株取引の大半のシェアはインターネット証券会社に取られてしまった」と嘆いていました。「我々のような大手は、全国に張り巡らせた支店でオンライン取引に抵抗のある高齢者をつなぎ留めてはいるけれど、その数も年々減っていく。どうしたらいいのだろう」と。

 筆者は正直、その発言を聞いてがくぜんとしました。インターネット証券が日本で初めて世に出たのは1998年です。つまり、今から20年以上も前のことです。素人目に見ても、いつかはインターネット証券が主流になることは容易に予想できたはずです。

 また、先日、大手鉄道会社の人から「うちにはGAFAの影響はないからこれといった対応は不要ですよね」と話しかけられました。しかし近い将来、無料の自動運転タクシーが都市部を走り回る可能性が高い。そうなれば、ドア・トゥ・ドアで移動できてしまいます。

 また、米テスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏考案の時速1000㎞で高速移動できるハイパーループ(次世代型超高速輸送システム)も、欧米、中東やアジアでテスト走行が始まっています。従来の電車に乗る人が劇的に減る可能性は十二分にあるわけです。

 一方、GAFAの影響がほとんどなさそうな中小のガラス建材メーカーはすでに危機感を覚えています。今すぐGAFA対策に乗り出さなくても足元の業績に影響はなさそうなのに、トップは将来を見据えたDX(デジタルトランスフォーメーション)に余念がありません。

 その理由は、そのメーカーの納品先が、三井不動産や三菱地所といった大手のオフィスビルだからだそうです。納品先である大手オフィスビルが、今後、スマートオフィスやスマートシティーに取り組んでいくのは必至。こうした動きに今後、対応していかなければならないと気づいているのです。

 オフィスビル側から考えると、納入業者を選ぶなら、デジタルに詳しく、スマートオフィスやスマートシティーに知見のある会社に発注するはずです。中小のガラス建材メーカーは、ともするとDXとは遠い業界に思えるかもしれませんが、積極的に最新情報の入手を進めて打ち手を探し始めています。

中間業者は姿を消していく

 業界としてだけではなく、業態で見ても今後大きな影響が出てきます。その代表例は「仲介業」。仲介、代理、卸、比較サイトなど中間業者といわれる業態です。

 そもそも、インターネットの最大の特徴の1つは売り手と買い手を直接つなぐこと。従って、ネットが普及すればするほど、仲介業者はなくならないまでも付加価値は低減していくことになります。

 分かりやすい例は、旅行会社でしょう。かつては旅行といえば、旅行会社に依頼するのが一般的でした。観光旅行といえば、旗を持ったガイドさんの後ろにずらずらと列をなして歩く姿をよく見かけたものです。しかし、ネットが普及したことにより、航空券や鉄道のチケットはネットで直接予約できるようになりました。

 ホテルや旅館、レンタカーなども同様です。個人旅行に関しては、もはや旅行会社に依頼する人はほとんど見かけなくなってしまいました。

 以前、お会いした自動車ディーラーの社長は「三重苦」と表現していました。日本は今後、人口が確実に減少していきます。市場が縮小することに加え、自動運転技術搭載車やEV(電気自動車)が今後主流になると、エンジンを積んでいないため保守点検の機会が大幅に減ります。事故そのものが減るため、修理機会も激減し、保険加入者も減少します。さらにはテスラのようにインターネットで自動車を注文できるようになれば、自動車ディーラーの存在理由が消えてしまうのです。実際、テスラは直販でディーラーもなく、広告費もかけずに急成長しています。

DXに成功したリクルートの決断

 リクルートホールディングスはDXに成功した代表的企業といっていいと思います。彼らが注目されているのはこれまでに2度、DXに成功したと考えられているからです。1回目は、紙媒体中心の事業からインターネットメディアへの転換に成功したことです。次々とウェブサービスを立ち上げ、紙媒体を休刊していきました。

 2回目のDXはマッチングビジネスからの脱却です。彼らが主事業としていた売り手と買い手の中間に立つマッチングビジネスが、グーグルをはじめとする新興ネット企業に取って代わられると早期に理解したためでした。

 例えば、リクルートの代表的サービスである求人メディア「リクナビ」は、求人企業と求職者をマッチングするサービスとして長らく高収益をもたらしました。しかし、グーグルなどの検索サービスの台頭により、求職者は比較サイトではなく、直接検索した結果の上位から企業を選ぶようになりました。

 これに気づいた彼らは、当時まだ売り上げが100億円にも満たないベンチャーだった米インディードを1000億円超で買収。今ではリクルートにとって大きな柱に育ち、M&A(合併・買収)およびその後の成長を主導した出木場久征氏は、峰岸真澄氏に代わってリクルートホールディングスの社長兼CEO(最高経営責任者)になりました。経営陣の先見の明が証明されたわけです。

 インディードは求人情報専門の検索エンジンを手がけていました。買収当時、マッチングビジネスを手がけるリクルートにとっては競合にもなり得る存在でした。「どうせ他社にやられるくらいなら、自分たちで自らのビジネスを壊しにいく」という姿勢は、まるで「攻撃は最大の防御なり」のお手本のようです。

 これは、けっして他人事ではありません。筆者が経営する会社も、かつての主力事業はインターネット広告代理店でまさに中間業者です。広告代理店もなくなることはないまでも、付加価値は大きく低減すると筆者は考えています。

 産業構造上、あらゆる業界に存在した中間業者が、ネットにより排除されるようになると、膨大な社会コストが削減できます。そして、それまで我が世の春を謳歌してきた中間業者が退場を余儀なくされるのです。

 だからこそ、筆者が経営する会社も、社名を変更してまで業態を大きく変える決断をしました。

(この記事は、書籍『ZERO IMPACT ~あなたのビジネスが消える~』の一部を再構成したものです)

この記事はシリーズ「あらがうか、向き合うか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。