マス広告代理店がこれまで歩んできた歴史をひもといてみると、自分たちでメディアを持たない、完全な仲介業としての代理店は、トップ2までしか生き残れていません。インターネット広告でも同じことが起きると考えれば、厳しい戦いになることは目に見えていました。
そもそも広告代理店のビジネスモデルは、マージンからコストを引いていくので、営業利益率が1~5%と低い。全社員の年収を100万円上げると赤字になってしまうのです。裏を返せば、若い社員を酷使していることと同じといえるかもしれません。
本来、企業の成長とともに社員の給料をどんどん上げていけるビジネスのほうが健全です。ただでさえ利益率が低い事業で、コンペに負けた理由が値引き率だったというようなビジネスモデルを続けていれば、会社も社員も疲弊してしまいます。
また、インターネットの本質は、売り手と買い手が直接つながることです。広告業界だけでなく、様々な中間業者の価値はおのずと下がっていきます。そんな業界の中にとどまってシェア争いをすることに、どれほどの意味があるのでしょうか。
たとえ、その業界の中でトップシェアを奪取し、利益が出せたとしても、企業としての存在価値を果たして感じられるでしょうか。次の20年、インターネットのようにこの世界を変えていく武器は何かと考えたとき、行き着いた答えがDXなのです。あらゆる企業がDXに取り組めば、企業が強くなり、結果、日本の国力の底上げにもつながると信じています。
インターネットが起こしたような規模の社会変化が、これからの20年、DXによって起きていくでしょう。まさに、インターネットと出合い、その潜在力に興奮したときと同様の興奮を、今感じています。
ここ数年、インターネット広告業を営みながらも、クライアントからDXについて問い合わせを受けることが増えていました。クライアントが我々に求めているものは、もはやインターネット広告そのものではなく、1500人のデジタル人材を持つ弊社に集約されているデジタルに関する知見なのだということが分かってきました。
俯瞰(ふかん)してみると、デジタルに強く、若い人材が集まっていて、さらにインターネット広告業としてすでにクライアントとのつながりもある、そんな会社は多くありません。DX支援事業を手がけるリソースをすでに持っていて、事業転換に最も適しているのは我々なのではないかと考えました。そんな環境下で、社会としても求められているDXの領域に移行するのは、我々の使命ではないかという結論に行き着いたのです。
1990年代後半、経営の経験も浅く、社員数も20名ほどの中小企業の経営者として、ファクスのダイレクトマーケティングから脱却する決断をしたのは、そこにインターネットという大きな可能性があったからです。
今後、デジタル通貨や電気自動車の自動運転など、あらゆるものがデジタル化することは明らかです。それは経営者特有の嗅覚といったものではありません。世の中の動きを歴史からひもとき、現在の位置を確認し、未来を想像すれば、万人が分かることです。予測するのが難しい複雑な世の中で、数少ない明らかな事実といえます。であれば、未来の訪れをじっと待つよりも、先に飛び込んでしまったほうが成功確率は高くなるはずです。
ここまで言い切ると、なぜDX化が進まないのかと不思議になりますが、やはり既存のものを捨てる怖さが足かせになるのでしょう。起業家ではない、いわゆる大企業の経営者の中には、自分の在任期間中だけ会社が存続すればよく、その後のことは次の世代にお任せという人も見受けられます。「逃げ切る」という発想の社長がいる限り、その会社は変われません。本当に将来を見据えている社長であれば、すでにDXへと手を打ち始めているはずです。
もちろん、残存者利益を取りに行く考え方もあります。周りが変化していく中、じっと耐えて最後に残る利益を独占するのです。しかしそれは後ろ向きな考え方ですし、何より現場が疲弊します。さらに世の中が変化していった先で、果たして耐えられるでしょうか。
事業をトランスフォーメーションさせるということは、すぐには収益が上がらないということでもあります。しかし、既存事業にしがみついていた場合よりも、大きく化ける可能性があります。それに、同じ労力を使うのであれば、新しい領域にチャレンジするほうが、健全で楽しく、前向きに取り組めるはずです。
これから来るDXの時代、新しい知識やスキルを得たほうが人材価値は高まるわけですから、社員にとってもメリットがあります。
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