日本のDX推進を取り巻く環境

前回、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進まない理由として、前ならえ、右ならえで、列を崩そうとしないという話がありました。日本がDXを進めるために必要なことは何でしょうか。

三木谷氏:日本政府の場合、総論は「OK」、各論が「NO」の世界です。例えば、免許証を廃止してマイナンバーカードに統合しようとすると、総論はOKとなっても、おそらく警察が反対する。利権が多すぎるのです。

 脱ハンコの動きは大きな出来事でしたが、それだけで終わらず、ドミノ倒しの原点になるかが重要です。ただ、政府のDXが進むことと民間の経済発展はあまり関係性がないのではないかと思っています。マイナンバーカードが普及したからといって、日本経済でイノベーションが起きるかというと、それは疑問です。

著者(写真=竹井俊晴)
著者(写真=竹井俊晴)

日本企業のDXも遅れていると思いますが、三木谷さんはどうお考えですか。

三木谷氏:一般的にはそうだと思います。どうやったら進むかは、社名変更した鉢嶺さんががんばるしかない(笑)。

 DXによって生産性が上がると、競争力も向上するでしょうね。DXそのものが産業ともいえます。米セールスフォース・ドットコムもそうですし、ほかにも様々なソフトウエアプラットフォーム企業があります。DXによって経済行動で生じる摩擦が一気に減っていきます。全てがデジタルで完結することでビジネスがスピードアップし、生産性は大きく飛躍するでしょう。

 生産性が上がってくると、雇用をどのように吸収するかも考えなければなりません。そのためには産業の4つのコアエンジンをベースに経済を組み立てる必要があります。

 1つめは知的財産で、2つめは住環境や観光も含めた国のフィジカルなアセットです。3つめはファイナンス。シリコンバレーやウォールストリートのようなファイナンシャルマーケットを持っていることです。それに加えて、日本の製造技術です。

 この4つをベースに、様々なサービス業がそれらを支えていくフォーメーションを明確化すべきです。しかし今の日本では、そういった全体的な戦略を描けていない。

 DXに関して懸念しているのは、ここでもまた国任せになってしまうこと。国家資本主義的な発想になりつつあることです。官僚が投資先を決めてしまえば、金をどぶに捨てるようなものです。民間でできることは民間でやる、それがDXの基本です。デジタル庁の役人が、全員日本人でなければいけないということにもあきれましたね。

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