「テクノロジーが人類にとって幸せかどうか、その議論自体にはあまり意味がない。いずれにしても発展していくものなのだ。どうせあらがえないのであれば、テクノロジーの進化の先端にいたほうがいい」

 連載「あらがうか、向き合うか」の最終回は前編に引き続き、著者と楽天グループの三木谷浩史会長兼社長の対談をお送りする。(同対談は2021年1月に行われたものです)

楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏(写真=竹井俊晴)
楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏(写真=竹井俊晴)

アントレプレナーとして、三木谷さんはEC(電子商取引)から事業を開始しています。創業当時から、デジタル時代の到来を見越していたのでしょうか。

楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史氏(以下、三木谷氏):もちろんそうです。原理原則は単純な方程式です。例えば通信販売では、1万円の商品に対して、カタログの制作費やコールセンターの人件費などで3000円ほどかかっています。そこに利益がプラスされる。インターネットで販売すれば、30%値引きして売っても、同じ値段で売ってもいいわけです。そう考えれば、デジタル化は自然な流れです。

 先読みしてプランを立て、実行力のある人間に投資するのが正しい判断です。米国が日本と違う点は、失敗した起業家に対して、さらにイノベーションマネーが大量に流れ込むこと。一度失敗したなら、そこから学んで同じ失敗は起こさないだろうという考え方です。日本だと再起不能と判断されてしまう。

 日本がGAFAに勝つためには、アントレプレナーが挑戦できるエコシステム(生態系)をつくる必要があります。日本にも投資マネーが余っています。そのお金をなぜイノベーションに投資しないのでしょうか。真の意味でのベンチャーキャピタリストと、頭のネジが2、3本抜けたような、ブレーキの壊れたアントレプレナーが大量に出現してくると、日本もこの先、変われるでしょう。

日本にはもともと携帯電話の「iモード」もありましたし、SNSの「mixi」もありました。動画サービスの「ニコニコ動画」も善戦していたはずです。にもかかわらず、全てGAFAに取って代わられました。EC市場でなぜ楽天はリプレースされずに生き残っているのでしょうか。

三木谷氏:常にリスクを取って新しいことに挑戦しているからでしょうね。国内のプロ野球チームや国内外のサッカーチームへの投資もそうです。正直なところ、失敗もありますよ。それでも7割バッターであれば十分だろうと思っています。

 GAFAだって決して10割バッターではない。例えば、米フェイスブックが米ワッツアップを1兆9000億円で買収したのは、はたして正しい選択だったのかは分かりません。それでもインスタグラム買収を成功と捉えれば、2分の1の確率で当たったからいいかと考えられます。

 あと、楽天がGAFAにリプレースされなかった要因の一つには、社内の英語公用語化もあるかもしれません。

 楽天モバイルのフロアでは、日本人は少数派で、多くは海外からのエンジニアです。まったく新しい技術を使い、世界で誰も実現したことのないソフトウエアベースの携帯通信ネットワークを組むためには、日本人だけでは不可能です。

社内英語公用語化を発表した当時、「本質的な国際化ではない」といった批判も多かったと思いますが、今となっては強力な武器になっています。日本の多くの起業家がなかなか海外で挑戦しない中、三木谷さんは常にワールドワイドで戦う姿勢を持っていますよね。

三木谷氏:もちろんその分、失敗もしています。結果でも評価してもらえるようにがんばります(笑)。

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