インターネットの世界では、言語圏が勝敗を分ける側面があるため、日本企業が世界を席巻するのは難しいのが現実。プラットフォーム戦争では米国勢が圧倒的に有利です。
前回触れたソフトバンクグループや南アフリカのメディア企業であるナスパーズのように、すでに大きくなっているプラットフォーム事業者の大株主に今からなることはもはや現実的ではありませんし、米国の近年のベンチャーは種類株上場といって、創業者の議決権を保持したまま上場するため、どんなに持ち株比率を増やそうが、会社を支配することはできない仕組みになっています。
一方で、GAFAM(米グーグル、米アップル、米フェイスブック=現メタ、米アマゾン・ドット・コム、米マイクロソフト)への規制強化の動きも広がり始めました。動きが早かったのは欧州ですが、最近では本国での規制も強まっています。
例えば、米連邦取引委員会(FTC)と48州・地域の司法長官はフェイスブックを反トラスト法(独占禁止法)違反で訴えました。2012年のインスタグラム買収、14年のワッツアップ買収が競争を阻害する目的による買収だったとして、フェイスブックからの両社の分離を求めています。
プラットフォーム事業者はいったん市場を独占してしまうと、その後、さらなる寡占化が進みやすい傾向があります。ある時期までは自国の成長に寄与しますが、そのままにしておくと正しい競争が起きにくくなり、結果、ベンチャーが生まれる土壌を奪ってしまいます。
今後、力を持つプラットフォーム事業者に対し、規制強化や各国の徴税強化が進むでしょう。
週3日1日3時間しか働かない時代に人は何をするのか
この連載では、以前、中国アリババグループ創業者のジャック・マー氏の「20~30年後には週3日、1日3時間しか働かない」という予測を紹介しました。人々は余った時間を何に使うのでしょうか。暮らしていくための収入をどうやって得るのでしょうか。
多くの人は、余った時間を使って新たな仕事を見つけるようになるでしょう。新幹線が開通し、東京・大阪間は片道約2時間半で移動できるようになりました。江戸時代には徒歩で約1カ月をかけて移動した距離です。
しかし、結果的に生まれた時間で人は遊びほうけることなく、働き続けています。働くということそのものに生きがいや幸せを見いだしている側面は否定できません。人工知能(AI)がどれだけ人間の仕事を代替しようとも、それによって週3日、1日3時間の労働で済む社会になったとしても、何かしらの仕事を見つけて働こうとする人は一定数いることでしょう。
一方で、仕事以外の選択肢も出てきそうです。米国の経営学者であるピーター・ドラッカー氏は「将来は企業活動は従になり、社会貢献活動が主になる」と予測しています。最近の若い優秀な学生や会社員に、社会貢献意識を強く感じる瞬間があります。
これまで目立たずにこっそりすることが美徳とされてきた寄付活動も、クラウドファンディングの仕組みも相まってよりオープンに、みんなで取り組もうとする動きが広がっています。
SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが広がっていることも同様の理由でしょう。経済活動において、社会全体の利益を優先することでこそ持続可能性を保てるという意識が浸透し始めています。
ベーシックインカムに関する議論も注目しておくべきです。新型コロナが世界中でまん延し、都市封鎖や移動制限によって、仕事や生活が止まりました。政府が生活を保障する必要性が高まり、スペインでは収入や扶養家族の数によって給付額が決定されるベーシックインカムが導入されました。
日本でも20年9月、東洋大学客員研究員(元教授)の竹中平蔵氏が国民1人に対し、月額7万円を支給するベーシックインカムの導入を提言したことから話題に上りました。
批判の声が多数を占めましたが、その内訳を見ると「月額7万円では暮らせない」「社会保障費を削減しようとしている」といった論調が多かったように思います。
確かに、現時点で7万円で生活するのは非現実的でしょう。しかし、デジタル産業革命によってインフラ3分野(モビリティー、通信コミュニケーション、エネルギー)のコストゼロ化が進めば、がぜんこの議論も現実味を帯びてきます。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、10万円の特別定額給付金が国民一律に配られました。筆者の知人の蓑田秀策氏が創設した一般財団法人100万人のクラシックライブでは、全国で演奏会を開催することで音楽家を支援しています。ある女性演奏家はコロナで演奏機会が減少して生活できないために、アルバイトで生計を立てているそうです。例えば、このような演奏家にベーシックインカムがあれば、どんなに良いことでしょう。
ベーシックインカムによって、働かない人が増えるとの懸念は確かにありますし、財源をどうするかという問題もあります。しかし、プラスの側面もあるはずです。
様々な観点から議論を始めることがまずは重要だと考えます。行動だけが日本の未来を創ると思われていた1989年にバブル経済の頂点を迎えて以降、日本経済は長期的な低迷期を過ごしてきました。失われた30年といわれた過去を踏まえた上で、次の30年をどのように迎えるのか。日本は岐路に立たされています。
マクロ的視点に立てば、人口減少や少子高齢化など経済成長にとってのマイナス要因は確かに存在します。加えて、現在、多くの個人や企業が、予期せぬコロナ禍で苦境に立たされているのも確かでしょう。
しかし、だからこそ変革期なのです。過去30年間、手をつけてこなかった全てがコロナ禍によって顕在化しました。2001年にIT基本法が施行されて以降、20年たっているにもかかわらず、日本の行政サービスはデジタル化されず、コロナ禍でほとんど機能しないことが露呈しました。
しかし今、国は過去の反省を踏まえて、デジタル庁を新設するなどチャレンジを始めています。「何もしてくれない」と民間企業が国に不平不満をぶつけている場合でしょうか。日本の戦後復興が奇跡と呼ばれたのは、いうまでもなく民間企業の力が大きかったはずです。国に寄りかかっているうちは、日本の再浮上は難しいでしょう。
テクノロジーの進化を見れば、未来は確度高く予測できます。そして変化は必ず訪れるのです。企業は座して待つのではなく、デジタル産業革命に自ら飛び込んでほしいと思っています。必ずや日本が持つ強みが改めて見直され、光り輝く瞬間が訪れるはずです。
(この記事は、書籍『ZERO IMPACT ~あなたのビジネスが消える~』の一部を再構成したものです)
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