金融インフラ事業やフィンテックソリューション事業を手がけるFinatextホールディングスが2021年12月22日、東証マザーズに上場した。同社は国内フィンテックベンチャーの草分け的存在で2013年12月に創業。株取引手数料無料の株取引アプリ「Stream」や妊娠・出産・子育てをカバーする保険「母子保険はぐ」といったコンシューマー向けサービスに加え、証券ビジネスプラットフォーム「BaaS」や保険クラウドサービス「Inspire」など企業向けサービスも提供している。Finatextホールディングス代表取締役社長CEOの林良太氏に話を聞いた。

Finatextホールディングス代表取締役社長CEOの林良太氏(写真=的野弘路)
Finatextホールディングス代表取締役社長CEOの林良太氏(写真=的野弘路)

国内のフィンテック黎明(れいめい)期に創業して8年、東証マザーズに上場した。

Finatextホールディングス代表取締役社長CEOの林良太氏(以下、林氏):今回の上場に当たって私は1株も売り出していないし、個人的な変化はあまりない。ただ、これまでスタートアップとして認識されており、フィンテックの追い風もあってここまで成長できた。上場後は数字に基づく評価を受けるようになるため、一種の緊張感がある。

 当初は「あすかぶ!」という株価をみんなで予測するサービスから始めた。当時から現在のような事業形態の広がりを想定していたわけではない。金融サービスをもっと良くしたいという思いがベースにあり、まずはUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)といったフロント部分から事業を始めた。

 だが、その先の領域まで歩を進めようとすると、どうしても金融機関に頼らざるを得ないということが分かった。コアな領域を変えなければ、顧客体験を根本的に変えることは難しかった。

 このように考えていたとき、ちょうど様々な金融機能をオンラインサービスに自在に組み込める「Embedded Finance(組み込み金融)」の概念が出てきて事業を広げることにした。国内でフィンテックのムーブメントが起きたことも後押しになったが、いずれにしても事業を始めたタイミングが良かったと思う。

 この8年を振り返ると、国内の金融サービスは利便性が著しく向上したと感じている。金融商品も全体的に手数料が下がった。だが、キャッシュレス領域を除けば、フィンテック企業による新たなデジタルサービスが大きなシェアを獲得したわけではない。今後、勝者と敗者がはっきりしてくるだろう。

フィンテック領域で日本が抱えている課題は。

林氏:残されている課題はAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)だ。金融庁が旗を振って銀行側はAPIを用意した。だが、こうしたAPIを使って新たなサービスが次々と生まれているかというとそうではない。

 英国は金融市場を銀行が寡占していたため、独禁法の観点から命令に近い形でAPIの開放を進めた。だが、日本の場合、特にAPIを公開するインセンティブが銀行側にない。スタートアップ側も銀行との交渉は大変で、敬遠している。結果、どうしても深みのない金融サービスになってしまっている。

 この先、必要になってくるのは経済的なインセンティブをどう働かせるかという観点だろう。設備投資減税をはじめ、経済的インセンティブが働く設計が求められている。また、1つでも2つでも成功事例をつくっていく必要があるだろう。

上場後のFinatextの事業計画について教えてほしい。

林氏:事業の横展開と深く掘っていく深化の2方向で事業を展開していきたい。今後、金融サービスに垣根がなくなっていくのは確実だ。それぞれの金融機能を持っていないと顧客体験としてはよくない状況に陥る。まだ手がけていない融資や送金といった事業に広げていきたい。

 一方で、深く掘っていく領域としては保険業界に注目している。保険業界のIT支出は2021年で1.5兆円近くに上っている。これは小売り全体のIT支出よりも大きい規模だ。小売業界周辺のスタートアップはたくさん存在しているが、保険領域は少数にとどまっている。現在手がけている証券、保険の領域を深く掘りつつ、金融機能を横に広げていければと考えている。

 これまで事業を展開してきて分かったのはライセンスを取得したり、自分たちで事業を立ち上げたりすることの大変さだ。だからこそ自分たちでつくることに意味があると考えている。M&A(合併・買収)の選択は否定はしない。だが、M&Aをするにしても主に人材獲得目的のアクハイアリング(Acqui-hiring)を検討していきたい。

今後、何をトランスフォーメーションしていきたいか。

林氏:金融のコアな領域で事業を展開していると、どうしても現状を維持したいという大手企業側のマインドの壁が立ちはだかる。こうしたマインドセットを変えていく存在になりたい。

 メルカリを見ていてすごいなと思うのは、当然のように米国に進出して結果を出していること。あれを見たら自分たちにもできるのではないかとみんなが挑戦し始める。それと同様、Finatextはスタートアップが成功しづらい金融のコアな領域で成功したいと思っている。これによって、金融の周辺領域ではないコアな領域でも、スタートアップがチャレンジできるんだという流れを創り出したい。

 スタートアップはどうしても既得権益、現状維持バイアス、政治に負けやすい。だから回避するのではなく、正面突破に挑むスタートアップがどんどん出てきてほしい。金融の本丸は、決して一部の大手ベンダーだけが活躍できる領域というわけではないはずだ。

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