もともと製薬会社で医薬情報担当者(MR)をしていた小野貴也氏。2014年に25万円の資本金を元手に立ち上げたのが障害者雇用支援事業を展開するヴァルトジャパン(東京・千代田)だ。

 同社は今夏、みずほキャピタルやZ Venture Capital、三井住友海上キャピタル、SMBCベンチャーキャピタルから約2億円を調達。11月にはうるるの子会社であるうるるBPO(東京・中央)と提携し、障害者雇用トータル支援サービス「eas next(イース ネクスト)」を発表した。

 障害者雇用促進法によって多くの企業に障害者雇用が義務づけられている。だが、積極的に雇用する企業がある一方で、まったく雇用していない企業も多い。ヴァルトジャパンの小野代表取締役に話を聞いた。

就労困難者に特化した受発注プラットフォーム「NEXT HERO」を運営するヴァルトジャパン代表取締役の小野貴也氏(写真=的野弘路)
就労困難者に特化した受発注プラットフォーム「NEXT HERO」を運営するヴァルトジャパン代表取締役の小野貴也氏(写真=的野弘路)

ヴァルトジャパンの事業について教えてほしい。

ヴァルトジャパン小野貴也代表取締役(以下、小野氏):我々は日本全国にいる障害者や難病を患っている就労困難者が仕事を通じて大活躍するための社会的インフラをつくっている。事業としてはとてもシンプルで、民間企業に営業に行って仕事を受注し、全国の就労困難者に適切に再分配する。新しい仕事の流通のあり方を模索している。

 全国には就労困難者が所属する就労継続支援事業所が1万5000カ所以上ある。国の障害福祉サービスの一つとして存在し、事業所そのものは民間が経営している。あまり知られていないが、こうした就労困難者のために用意されている仕組みは諸外国と比べると手厚い。世界に誇れるトップクラスの環境が構築されている。

 だが、課題がある。1つの事業所はおよそ30人ほどの就労困難者と5人ほどの福祉職員で運営されている。就労困難者が得ている賃金は月平均で1万6000円ほど。障害者年金や公的資金の支援はあるものの、自立できる水準ではない。

 過去振り返ると12年間で賃金水準は月4000円程度しか増えていない。就労困難者のQOL(Quality Of Life:生活の質)、賃金と生活を向上させたいと考えている。

 就労継続支援事業所に目を付けた理由は「人材」と「敷地面積」という2つのアセット(資産)にとてつもないポテンシャルを感じたためだ。

 就労継続支援事業所で働く人材は全国で50万人。これはトヨタ自動車の全従業員数の1.5倍に当たる。また、就労困難者が作業するスペースという観点で見るとファーストリテイリングが持っている自社ロジスティックスセンターの2.6倍ほどある。

 これだけのアセットがあるにもかかわらず、民間企業とうまく連携できていない。それどころか、民間企業がアクセスすらできていない。もっと経済セクターに価値を提供できるはずだと考えた。

 日本は今後、確実に労働人口が減少する。経済セクター側と就労セクター側をつなげたいという思いで、就労困難者に特化した受発注プラットフォーム「NEXT HERO」を運営している。

 NEXT HEROは単に企業に対して事業所を紹介しているわけではない。我々自身が受注者となり、納品責任を負う。

MRからなぜ起業の道を選んだのか。

小野氏:起業する前は、製薬会社で医薬情報担当者(MR)をしていた。生活習慣病と精神疾患系の薬を取り扱っていた。

 MRは患者と直接コミュニケーションを取ってはいけないことになっている。そのため、個人的に休日に、精神疾患を患っている人や発達障害を抱えた人が集まる会合に参加した。

 30人くらいの人たちが互いの体験談を語り情報交換する会だったが、一人ひとり障害特性はばらばらだった。一つだけ共通していたのが仕事での成功体験がなかったこと。私自身、いい薬やいい医療を通じて患者のQOLを向上させたいという思いで製薬会社に勤めていたが、薬の力だけでは仕事の成功体験をつくるのは難しいと感じた。

 また、私自身、大学時代から約5年間にわたって摂食障害で苦しんだ経験もある。

 もともと野球をしていて、甲子園を目指して島根県の立正大学淞南高校に入学した。このときの監督が自分にとっては第2の“オヤジ”のような存在で、人間性も含めて育てていただいた恩人だった。

 大学2年生のころ、恩師である監督が40歳で急性心筋梗塞で突然亡くなってしまった。自分の家族を失った感覚に陥り、それがもととなって摂食障害を患った。

 こうした経験が今の起業につながっている。

障害者の賃金をどう上げていくのか。

小野氏:障害者には生産性という課題がある。事業所で請け負う仕事は業務委託契約のため、仕事に要する時間がかかるほど時給は減っていくことになる。一般的に換算すると時給はおよそ200円くらいだ。

 我々としては東京の最低賃金以上で作業費を確保し、間に入って案件を管理する。企業側からディレクションフィーとして20~30%いただき、作業費がそのまま障害者に行き渡るようにしている。

 価格競争に巻き込まれない領域に焦点を絞るようにもしている。過去、価格競争で地獄を見てきたためだ。多少人件費が上がってでも人手不足に悩んでいる業界に特化させた。

 例えば、物流市場や製造業系の組み立て作業などがそれに当たる。私はラストワンマイルになぞらえて「ラストワンジョブ」と呼んでいるが、最後の一手間を加えないと完成しない仕事が世の中には存在する。最後にネジを入れるといった細かすぎて設備投資できない領域だ。こうした領域は需要があるものの人手が足りていない。

 このラストワンジョブは細かく、しかも単純な反復作業が多い。通常であればしんどい仕事でも、むしろこうした作業を得意としてパフォーマンスを発揮し続けられる人が多い。障害特性を発揮することができれば、就労困難者にとってはベストワークとなる。

 企業の中には外部の人が作業しても十分機能する業務がある。これを我々は「ノンコア業務」と定義しており、就労困難者にとってはこれが「コア業務」になるわけだ。

 また、地方にいけばいくほど人手が足りていない現実がある。仕事の領域、エリアを絞って営業をかけていくことによって、いかに価格競争に巻き込まれないかを工夫している。

障害者雇用促進法によって企業は障害者雇用が義務づけられているが、法定雇用率に達していない企業が多い。

小野氏:障害者の法定雇用率は現在、従業員数の2.3%。従業員数が43.5人以上の企業に義務づけられている。我々が提供しているプラットフォームを通じて仕事をしてもらう就労困難者の大半は何かしらの障害を持っている人。実際に仕事をしてもらい、採用したい、働きたいという需給が一致すれば直接雇用の道が開ける。

 法定雇用率そのものは重要な指標だ。だが、この数値が一人歩きしてしまう側面もある。達成するか否かという議論に終始してしまうケースがあるからだ。

 人は目標を達成するとその先を描きづらいもの。法定雇用率は現在の唯一の指標となっているが、もっと指標そのものが多様化し、アップデートされてもいいのではないかと思う。

政府に別の指標もつくってほしいということか。

小野氏:現在、障害者の法定雇用率を達成していない企業が52%だ。そのうちの90%以上が従業員500人以下の企業となっている。まったく障害者を雇用していない企業が圧倒的に多い。こうした企業に対して、この先も法定雇用率を上げ続けていくという対応がはたして根本的な問題解決に結びつくか疑問がある。

 ポジショントークとして捉えられてもしかたがないが、我々のようなプラットフォームを通じて障害者に仕事を発注している企業も評価の対象に加えてほしい。ビジネスパートナーシップを結ぶところから始めていけば本質的な課題解決に必ずつながると見ている。

 日本の場合、精神障害者の2人に1人が1年間で離職している。本人の体調の問題もあるが、基本的にはミスマッチが起きている状況だ。雇用前に互いにマッチするかどうかが分かれば、離職率が改善し、定着率が向上するはずだ。

ヴァルトジャパンは最終的にどこを目指すのか。

小野氏:世界戦略を進めたい。メイド・イン・ジャパンの就労困難者特化型プラットフォームを海外に輸出していきたいと考えている。

 現在、挑戦しているのは障害特性と業務の関係性をビッグデータから導くこと。障害区分や障害者ごとの得手不得手といったデータに匿名化をほどこし、過去の受注実績との関連性を分析。どのような障害特性や疾患特性を持っている人がどのような仕事とマッチするのかを自動的に判別する仕組みをつくろうとしている。

 世界で最も就労困難者が活躍できるマッチングデータを持つ会社になりたい。諸外国では障害者に加えて生活困窮者も多い。ただ、こうした人たちにも必ず活躍できるフィールドがあるはずだ。こうした問題をテクノロジーで解決していきたい。

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