新型コロナウイルス禍の脅威が収まらない2020年10月、一人の現役東大生が起業を決意した。

 東京大学法学部4年生の中沢冬芽氏。グーグルやアップルジャパンでのインターンシップ経験を経て、彼が起業したのは大学の活動資金集め、および同窓会ネットワークの活性化支援事業を手がけるAlumnote(東京・文京)だ。

 同社は2021年12月1日、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)と東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)から資金を調達。年内をめどに大学支援事業を本格化させる予定だ。

 大学支援事業を展開するに至った背景についてAlumnote代表取締役の中沢氏に話を聞いた。

大学の活動資金集めや同窓会ネットワーク活性化事業を手がけるAlumnote代表取締役の中沢冬芽氏(写真=的野弘路)
大学の活動資金集めや同窓会ネットワーク活性化事業を手がけるAlumnote代表取締役の中沢冬芽氏(写真=的野弘路)

大学と同窓会ネットワークに焦点を当てた事業に取り組んでいるのはなぜか。

Alumnote中沢冬芽代表取締役(以下、中沢氏):きっかけは同窓会の存在に興味を持ったことだった。

 私は長野県松本市にある松本秀峰中等教育学校の卒業生。この学校は2010年に設立されたばかりの新設校で私は2期生に当たる。松本市から東京大学に進学するのはほんの一握りで、自分を律して高校3年間、必死に勉強して東京大学に入学できた。

 入学後、ひとりぼっちだった。そして、頑張って入学したはずの東京大学だが、なぜか都会出身の周りの学生は比較的容易に入学しているように見えた。この差はいったい何なんだろうとふと考えた。

 地方と都会の差は、結局のところ情報とお金。だが、情報格差問題の一言で片付けるわけにもいかない。地方にもテレビはあるし、インターネットもスマートフォンも身近にある。

 ただ、どのような情報をつかめばいいのか勘所が分からない点に問題が潜んでいる気がした。グーグルの検索サービスは誰しもが利用できる。だが、何のキーワードで検索すればいいのかが分かる人と分からない人に差が出てしまう。

 導いてくれる大人や目指すべきロールモデルがいたらよかったのにと思った。だが、自分の出身校は新設校だったため、当然、同窓会は存在しなかった。それからというもの、同窓会の存在に興味を持ち、国内外の同窓会サイトを調べ始めた。

 海外では米ハーバード大学の同窓会サイトは飛び抜けて格好良かった。大学が同窓会を大事にしていることが一目で分かり、ブランディングにも力を注いでいた。国内では周知の通り、慶応大学の慶応連合三田会の組織力が突出していた。

 最近では日本の大学の基金運用に注目が集まっているが、海外の大学は過去40年間寄付を積み上げ、毎年第一線の投資家が運用して収益を上げている。例えば、米スタンフォード大学やハーバード大学では年間1000億円以上の寄付金を集めており、基金の重要な資金源の1つになっている。英国や米国の州立大学なども2000年代から積極的な寄付金増加策を取っている。

 一方、日本の大学の収益構造は補助金頼みのまま。寄付金も年間数十億円~100億円強と、海外との差は大きい。

 同窓会の役割は大学という母体を支える集団であり、支えられる大学にとっても同窓会が活性化しているメリットは大きいはず。大学も積極的に寄付を訴えているものの、目標と実績の数字がかけはなれている大学が多い。ここを支援できるのではないかと考えた。