「いい年をして」「若いくせに」……。ウェルエイジング経済フォーラムの佐藤ゆみ代表理事は、そんな心ない言葉の背景にあるエイジズム(年齢差別)と闘っている。何歳であろうと、自分らしく自由に生きられる社会を目指す活動の全容を聞いた。

どのような社会を目指していますか。
佐藤ゆみ氏(以下、佐藤):「Age is just a number(年齢は数字にすぎない)」が私のモットーです。年齢にとらわれずエイジフリーに活躍できる共生社会に向けて、日本人のマインドセットの変革や政策の提言に取り組んでいます。
具体的にどのようなマインドセットが問題だと認識しているのでしょうか。
佐藤:2016年にTBS系列で「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマが放映され、大人気となりました。覚えている読者も多いでしょう。そこに印象に残るシーンがあります。女優の石田ゆり子さんが演じる土屋百合が、若い女性から「50(歳)にもなって若い男に色目使うなんて、むなしくなりませんか」と疑問を投げかけられます。年を重ねると年下の男性との恋愛も控えねばならないという、多くの日本人が持っているであろうマインドセットを象徴するシーンです。
このように年齢に応じて女性の言動を制限してしまうような考え方は、職場でも見受けられます。例えば「若い女性は男性以上に活躍してはならない」という固定観念が残る職場は少なくありません。こうした価値観に反して、年下の女性が男性と同等以上の役職に昇進すると、男性たちは「会社が女性活躍推進を内外にアピールするために、人事面で女性を優遇している」などと愚痴り始めます。
女性が自分らしく自由に生きられ、もっと社会で活躍できるようにするためにも、年齢で女性たちの振る舞いに制限を加えるようなマインドセットを変えていかねばなりません。
日本には性別にかかわらず、年下が上役に就くことへの抵抗が強い職場がまだ多く残っています。
佐藤氏:その通りです。日本の産業界や学術界、政界は年功序列型の人事制度から抜け切れていません。年下が上役に就きづらく、大企業や政界で若手リーダーがなかなか生まれない原因になっています。このように年齢や勤続年数に応じて役職を上昇させる年功序列制度は、日本独特のエイジズムともいえるでしょう。
年功序列制を残している会社には、自分より年上の上役に意見しにくい雰囲気があり、現場の悪い報告が組織の上層部に届きにくくなります。上役に方針転換を提案しづらく、前例踏襲主義に陥る一因にもなります。また上下の風通しが悪いので、組織内でパーパス(存在意義)や知識、スキルが共有しづらく、結果的に新規事業やイノベーションが生まれにくくなる恐れがあります。
また社内では重用される年長者ですが、定年を迎え、会社を去ると、日本では社会的に活躍できる余地が急に小さくなります。スイス・チューリヒ大学の研究者らの調査によると、創造的な業務においては、さまざまな世代を集めたチームの方が生産性が上がるそうです。日本企業は定年後も働く意欲とスキルがある高齢者をチームに迎え入れてみたらどうでしょうか。定年退職者の活躍の場が広がるだけでなく、チームのイノベーションも促されるはずです。
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