1946年創業の中田工芸は、かばんの生産地として知られる兵庫県豊岡市の一角で、洋服のハンガーを作ってきた。職人が1本1本を木材から削り出しており、ハンガーとしては高価格帯の1本数千円~数万円で百貨店に並ぶ。お歳暮やお中元、昇進・進学祝い、結婚式の引き出物など、贈答品としても人気を集める。ファッション業界では一般的に脇役扱いのハンガーを、主役級に格上げすることに成功した、3代目社長の中田修平氏に話を聞いた。

品質にこだわった自社製のハンガーを手にする中田修平社長
品質にこだわった自社製のハンガーを手にする中田修平社長

低価格で販売されるイメージが強いハンガーを、贈答品にするという発想はどこから生まれたのですか。

中田工芸の中田修平社長(以下、中田氏):中田工芸ではもともとアパレル店でジャケットなどをつるすのに使われる、高級感のある木製ハンガーを法人向けに製造・販売していました。大量生産される低価格帯のハンガーとは違い、ジャケットの型くずれを防ぐために、しっかりと厚みをもたせたハンガーを丁寧に手作りしてきました。2000年からインターネットでも購入できるようにしたところ、意外にも法人だけでなく、個人からも引き合いがありました。

 そこで07年に「NAKATA HANGER(ナカタハンガー)」というブランドを立ち上げ、東京・青山にショールームを開設するなど、個人市場を本格に切り開くことにしたのです。当時、米ニューヨークにある会社に勤務していた私は、このタイミングで帰国し、家業の中田工芸に入社しました。そして個人市場の開拓を進めました。

 ショールームを立ち上げてからは、顧客から「知人にもハンガーを贈りたい」という声が徐々に届くようになりました。潜在需要があると判断し、09年から贈答用のハンガーを売り出したというのが経緯です。

贈答品としてのハンガーは、普通に販売しているハンガーとどう違うのでしょう。

中田氏:ハンガーをきれいな箱に収めて、「ふくをかける」と記したメッセージカードを添えます。これは創業者である祖父が、生前によく口にしていた言葉です。ハンガーに「服」だけでなく、「福もかける」という意味を込めて、縁起物にしました。レーザーで贈答相手の名前を印字し、結婚式の引き出物や、誕生日や父の日のプレゼント、卒業記念品などとしてご提供しています。

 卒業記念品の場合、レーザーで校章を入れて販売しています。需要が多いのは小学校です。卒業後に進学した中学校の制服をかけたりしていただいています。

 贈答用のハンガーは珍しく、競合他社がほとんどいません。価格競争に陥ることがあまりない市場を自分たちでつくることができました。箱を開けたらハンガーが出てきたという意外感が喜ばれています。