電気自動車(EV)事業を本格化させ、2025年にはホンダと提携して市販EVを発売する計画のソニーグループ。9月28日には新会社「ソニー・ホンダモビリティ」が発足した。

ソニーでEV開発を主導してきたのは、かつてゲーム機「プレイステーション」や犬型ロボット「aibo(アイボ)」などを手がけてきた川西泉氏。ソニーモビリティの代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)を務める川西氏に、ソニーが目指すモビリティの未来図を聞いた。

川西泉(かわにし・いずみ)
川西泉(かわにし・いずみ)
ソニーグループ常務モビリティ事業担当モビリティ事業室部門長 ソニー・ホンダモビリティ代表取締役社長兼COO 1986年ソニーに入社し、ゲーム機「プレイステーション」の開発などに従事。非接触型ICチップ「Felica」の事業部長、モバイル事業取締役などを経て、16年からはAIロボティクスビジネスの担当に。18年に復活した犬型ロボット「aibo(アイボ)」では開発責任者も務めた。(写真:陶山勉)

ソニーグループは今年3月にEV事業でホンダとの提携を発表し、9月にはソニー・ホンダモビリティが発足しました。まずはこの経緯について教えてください。

ソニーモビリティ社長・川西泉氏(以下、川西氏):ソニーが自動車へ参入したターニングポイントは、2020年1月のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)だったと思います。開発を進めていた「VISION-S」というEVのプロトタイプを発表して以降、自動車メーカーに限らず、いろいろなところからお話をいただくようになりました。ただ、当初はまだ量産計画を持っていませんでした。当面は開発を続けて自分たちの技術的な知見をためよう、というのが基本的なスタンスでした。

 そうした中、次第にモビリティ分野に対してソニーの持つ技術が生かせる面が多々あるのではないか、車だけではなくサービスまで含めて貢献できる領域があるのではないか、と考え始めました。ホンダさんとの提携はそうしたタイミングだったんですね。彼らには車両開発の経験や実績がもちろんあります。

 一般的なイメージとして、(自分たちの歴史や企業風土と)近いような。似たものがあるのかな、と感じていました。そうした世の中の期待値もあるのではと勝手に想像もする中で、お互いを補完できるような良いパートナーになれるだろうと考えました。

似たものだと感じた点は特にどのあたりでしょう。

川西氏:新しいことをやる、チャレンジしていく。そういったスピリットが一番共感したポイントです。特に今回は、最先端の技術をモビリティに導入したいという気持ちがあります。そういった志を同じくしているかどうかで、結果として目指す先に違いは出てきます。トップマネジメントを含めて、そういった挑戦への思いが共有できたのかなと思います。

 21年の夏にホンダさんと合同でワークショップをやって、うちからも若手のエンジニアが参加しました。彼らがみんなすごく生き生きとしていて、それがすごく良かったなと。私もエンジニアとして向こうの技術者と話をしましたが、志は近いと直感的に感じる部分はありましたね。

当初は量産を考えていなかったところから、「市販車をつくろう」と考えるに至った理由は何だったのでしょうか。

川西氏:量産をするかしないかの前に、会社として「まず、(EVを)やってみよう」とトライしたのが最初のステップでした。実際にやってみないと分からないことがたくさんありましたね。車は物理的に大きいですし、安全性も重要です。そうした部分は机上で考えてきれいに整理されるものではなくて、実際に手を動かして初めて、「難易度はどうか」「自分たちにクリアできるのか」といったことが分かるものです。

 ただ、量産となるともう一つ大きなハードルがあるということも理解していました。ですから、そこに対してどんなアプローチができるかという点も、当然スコープに入れて考えてはいました。「このタイミングで市販化を決めた」というよりは、自分たちの中で知見がたまっていったことや、世の中の反響や時代の流れが重なって、市販車をつくろうという考えが醸成されていった感じですね。