Fringe81は2021年10月1日、Unipos(ユニポス)と社名を変えた。2022年3月までに、祖業でもあり、売上高の7割を占める広告事業から完全に撤退し、社員同士がボーナスを与え合うピアボーナス事業「Unipos」へとリソースを集中する。同社は現在、東証マザーズに上場しているものの、21年6月にSansanと日本政策投資銀行から総額38億円を調達し、いずれSansanのグループ会社になる予定だ。

 Fringe81の創業は2005年。創業当時はRSS広告社で、2010年4月に社名変更した。ネットエイジグループ(現ユナイテッド)の一部門としてスタートした同社はMBO(経営陣が参加する買収)、IPO(新規株式公開)を経て、また新たなステージに進む。

 めまぐるしく変化を繰り返す同社の代表取締役CEO田中弦氏の真意は。話を聞いた。

Uniposの田中弦代表取締役CEO(写真=的野弘路)
Uniposの田中弦代表取締役CEO(写真=的野弘路)

RSS広告社からFringe81に至るまでインターネット広告事業を主事業にしてきた。今回、祖業を捨てる決断をした背景を教えてほしい。

Uniposの田中弦代表取締役CEO(以下、田中氏):うまく説明するのは難しいが、広告市場はハックする自由度が薄れたためだ。昔はテクノロジーを存分に使って様々なことを試みる楽しさがあった。グーグルやフェイスブックといったプラットフォーム事業者が第三者企業にある程度の自由を許容していたことも大きい。だが、プラットフォーム事業者ら自らが広告配信システムを増強したため、我々のような広告代理業が付加価値を出すことは難しくなった。

 もともとテクノロジーの社会実装に興味があった。2004年にネットエイジが持ち株会社化してネットエイジグループ(現ユナイテッド)へと社名を変え、翌年の2005年にRSS広告社を子会社として立ち上げた。当時は「Web2.0」という言葉がはやっていた時期で、RSSという新しい情報伝達手段に興味を覚えた。2007年には米グーグルが米フィードバーナー(FeedBurner)を買収するなど、業界としてRSSに新たな期待が集まっていた。

 結果として、RSSはそこまで流行しなかったが、広告業界がテクノロジーによって塗り替えられていくアドテクノロジー(アドテク)の領域は、社会実装に興味がある自分としては非常にエキサイティングな領域だった。

 RSS広告の領域でナンバーワンになり、次に何を仕掛けようかと考えていたときに「iogous(イオゴス)」という新たな広告配信プラットフォームを開発した。これはキャッチコピーや文字の色、ビジュアル、背景色などを組み替えた数千種類ものバナー広告をシステム上で自動生成し、反応の良いクリエーティブへと最適化していくディスプレー広告の配信プラットフォームだった。

 グーグルがちょうどその時期、運用型のディスプレー広告という概念を打ち出した。特定のキーワードで検索する人に表示するテキストベースの検索連動型広告と比べ、訪問者に対して画像や動画で作成されたバナーを表示するディスプレー広告は当然、目にする人が多い。市場としては運用型のディスプレー広告市場のほうが拡大するだろうと多くの広告主が考えていたものの、肝心のクリエーティブをどうするのかという問題を抱えていた。

 イオゴスそのものはビジネスとしてはうまくいかなかった。だが、この発表を機に運用まで依頼されることが増え、広告代理業を始めるきっかけとなった。テクノロジーとアドネットワークだけを提供してきた会社が広告代理業にまで幅を広げたことで、事業は大きく拡大した。

 2010年に社名をFringe81へと変更し、2013年にネットエイジからMBO(経営陣が参加する買収)して事業を続けてきた。事業は拡大していたし、収益だけを考えればこのタイミングで祖業を捨てる理由はない。だが、すべての産業で起きているようにAI(人工知能)に取って代わられる動きが広告市場でも起きている。決断するのであればこのタイミングだと思った。

祖業は創業者が最もこだわるもの。聖域として手を付けられない会社も多い。

田中氏:当然、考えたし、悩んだ。特に我々は上場もしているし、業績も大きく変わってしまう。依然として売上高の7割は広告事業が占めているためだ。結論を出すにしても、慎重に慎重を重ねなければと考えた。

 色々と考え抜いた結果、僕はいったい何をしてきて、これから何をしていきたいんだろうという一点に行き着いた。それはやはり、社会実装だった。過去に手がけてきたすべてに共通しているのがテクノロジーの社会実装だったし、これからもそれを手がけていきたいと思った。

 広告の領域ではある程度やりきった感もあった。もちろん合理的な判断もある。Uniposは社員やスタッフ同士で日ごろの仕事の成果や行動を称賛し合い、少額の成果給を相互に贈り合うSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)で、Fringe81の一事業として2017年に始めた。年間1.5倍のペースで売上高が伸びており、解約率も極めて低い。成長率と解約率から見ても、主事業に据えるだけの価値がある非常に魅力的な事業になると考えた。

 だが、広告事業とバランスを取りながらやっていると中途半端に終わってしまう。コロナ禍で広告市場が傷んでいる現状を鑑みて、合理的に考えても資金や人員といった経営資源を魅力的な領域に集中させたほうがいい。次のテーマを組織や働き方の変革に置き、これらを変えることにテクノロジーを実装していきたいと考えた。

 自身の決意を社員に伝えると、様々な反応があった。「なぜですか?」と詰め寄られることもあった。特に広告事業に対して思い入れがある人からの反発は強かった。コロナ禍で大変な状況の中、踏ん張ってくれていたので当然だろう。みんな影響を最小限に抑えようと頑張ってくれていた。ただ逆に「そちらのほうがいいと思います」とさばさばした人もいた。

ゆくゆくSansanグループに入る方針を示しているがこの理由は。

田中氏:2020年12月にも一度、Sansanから出資を受け入れ、資本業務提携を結んでいる。Sansan代表取締役社長CEOの寺田親弘さんと話をしていてUniposとSansanが非常に似ているという話になった。

 日本の名刺文化はある種独特のもので、寺田さんは名刺を会社の資産にするというコンセプトで十数年かけて社会実装を進めていった。Uniposも同様で、社員同士がボーナスを贈り合う仕組み自体は海外企業でも導入しているところがあるものの、送り合う行為をリアルタイムで可視化するというのは日本独自の進化系だ。日本オリジナルを社会実装していく上でSansanは先輩だったんだとこの時、認識を改めた。

 Sansanが伸びているからグループ入りするのではなく、社会実装するための最短ルートだという判断で決めた。Sansanから学べると考えた点は2つある。1つは、名刺が資産になると誰も思っていない中で事業を始め、一切ぶれずに信じてやり続けてきたこと。そしてもう1つは、技術を磨き続けるという点だ。

 Fringe81はSansanの初期顧客の1社だった。こう言うと申し訳ないが、当初は名刺読み込みの精度は極めて低かった。名刺デザインがまちまちで頻繁に読み込みに失敗していたことに起因している。もちろん、人力で補完するためサービスとしては問題なかったが、その後、Sansanは技術を磨き続けた。機械学習の精度が著しく進んだことでオペレーターが確認する頻度が低くなり、利益率が上がっていった。

 強い意志をもって継続することと、技術の研さんを続けて蓄積していくこと。これが掛け合わさることでさらに強くなっていく。我々はUniposを始めてからまだ4年だ。技術を磨き続けていかなければならない。

 海外の参考事例もない中で、オンリーワンのサービスを高い視座でつくりあげていくという点で合致したのは大きい。

最終的にUniposで何を実現したいのか。

田中氏:現在、つながりを可視化することは様々なツールを使って実現できる。だが、成果につながる動きをすべて可視化することは不可能だ。つながりを可視化するのではなく、つながりによって生まれたものを可視化していきたいと考えている。

 ミュージシャンで起業家でもあるデレク・シヴァーズが「TED2010」で披露した講演が一時話題になった(関連動画:社会運動はどうやって起こすか)。坂の上で突如一人の男が裸で踊り始め、それを見た一人が加わって踊り始める。それまでは恥ずかしいなと思って見ていた周囲の人たちも、3人目が加わったあたりから楽しそうだなと思い始め、最終的には大人数で踊り始めるというものだ。

 これこそが、ムーブメントだと思っている。会社内の様々な行動が可視化され、自分もこうすればいいんだということに気づくきっかけが随所にたくさん生まれて、ついていく人たちが増えていき、最終的には会社そのものが変わる。こうしたムーブメントを起こすことに貢献できるのではないかと考えている。

RSS広告社から始まり、Fringe81、そしてUniposへと社名を変える。上場企業でありながら会社そのものをトランスフォーメーションするのは難易度が高い。多くの企業がこれに躊躇(ちゅうちょ)する理由は。

田中氏:正直に言えば、我々も困っていなかったらやらなかっただろう。黒字のままで成長していたし、このまま続けていたほうが当然いいという判断も確かにあっただろう。だが、この規模の企業としてあれもこれも伸ばすということは難しいし、なにより事業のタイプが違った。広告事業は、いうなれば狩猟型のビジネスで、コンペを通じて案件を取りに行くビジネスだ。一方、UniposはSaaSで契約者を積み上げていく農耕型ビジネス。これら両方を器用に伸ばしていくのは難しかった。

 多くの企業が決断できない背景にあるのは「いろんなものが巻き返せる」と考えているからだと思う。緩やかな変化に身を置くと、皆が巻き返せると思ってしまう。今年ダメでも、来年頑張ればいいと考える。日本は内需も大きいし、高度成長期は確かにそういう側面はあったのかもしれない。

 だが、既に「不可逆の時代」に足を踏み入れている。緩やかではあるものの、不可逆的な変化が起き始めている。30年後、40年後に気がついても、決して巻き返せない。例えば、コロナ禍はいずれ収束するかもしれない。だが、コロナ禍を機に働き方は変わり、それらは元に戻らないかもしれない。いつか戻るだろうという前提で会社をマネジメントしていたら、その会社は取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。

 「いつか戻る」ではなく「いつまでたっても戻らない」。一時的な変化ではなく構造的変化が訪れていることに気づかなければならないのではないか。

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