現実的な未来と遠い架空の未来の“中間点”を描く

企業のデジタル戦略を描くための重要な視点は何か。

イナモト氏:それは「プラクティカルフューチャー(実践的未来)」を考えること。現実的な未来と遠い架空の未来の“中間点”を描くことが大切だと信じている。未来を考えるのはいいが、実践的でないと夢物語に終わり実現できない。一方、あまりにも現実的すぎると差別化にならない。実践的未来を描くために、テクノロジーとデザインをどう組み合わせるかが重要だ。

テクノロジーに対して、デザインの役割は何か。

イナモト氏:見えない物を可視化して、形にするのがデザインの役割だ。0から1を生み出すという点が常に重要だと思っている。アイデアを出して形にするときの技術としてデザインがあるだけで、デザインをすることが目的ではない。

 よく言われることだが、意識しているのはユーザーの「何が欲しいか」ではなく「何が悩みか」を拾うということ。(米フォード・モーター創業者の)ヘンリー・フォードが語ったように、顧客に何が欲しいかを聞いても「速い馬が欲しい」という答えが返ってきて、自動車にはたどり着けない。イマジネーション(創造力)とアイデアによって見えない価値を見つけ出すことで、今まで世の中になかったものを生み出すことができる。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

 一時期日本でも流行した「デザインシンキング(デザイン思考)」という言葉は、どうも形式が一人歩きしているようで僕はあまり好きではない。日本の企業は形式にこだわり過ぎる傾向があると思っている。

 例えば今回帰国するにあたり、居所確認アプリのダウンロードが必要だった。スマホにアプリを入れたかどうか、デジタルのツールにもかかわらず紙でチェックされた。「確認する」という形にこだわり、効率の悪いことをしている。日本の文化や考え方でしっかりやるのも素晴らしいことだが、本質を見ないところがあるのは正直気になる。

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