ユニークなデザインのサイクロン掃除機やドライヤーで知られる英家電メーカー、ダイソン。創業者のジェームズ・ダイソン氏は、家電のほかにも、アグリテック開発や大学を開校したことでも知られる。結果的に断念したものの、最近では電気自動車(EV)の開発に挑戦して注目を集めた。75歳となった今もダイソンのチーフエンジニアを務めるなど、底知れぬ好奇心と探究心で開発を続ける彼が見つめる先には何があるのか。
多くのヒット商品を生み出し、革新的な開発を続けてきました。発明を通じてもたらしたかったこととは何でしょうか。
ジェームズ・ダイソン氏(以下、ダイソン氏):使用する電力や部品を少なくしながら、より便利に、より使いやすくなるような新技術を開発するのが好きなだけです。例えば掃除機の場合、以前はシリンダー型(キャニスター型)といって、本体とスティック部分がホースでつながっていて、電源コードを差さないといけませんでした。しかし最新のものはスティックタイプでコードレスですよね。昔よりコンパクトで軽いのに、さらにマルチ機能が付いている。高いサステナビリティー(持続可能性)と少しの資源でより小さくて、軽いものを作る。それが、私たちが実現しようとしてきた技術革新です。
より小さく、軽くするという発想は、実は日本から得たものです。1985年に初めて日本を訪れたとき、すべてがミニチュアライズされていることに気がつきました。良い商品というのは、大きい必要はないのだと、むしろ小さいほうがいいのだと気がついたのです。コンパクトだけど機能性は高い。その重要性を私だけではなく、世界に知らしめたのが日本だと思います。

新型コロナウイルスが真のグローバル化を加速
日本人は新しいものや技術に対してオープンではないという意見もあります。
ダイソン氏:それは全く違う、正反対だと思います。次世代のエンジニアやデザイナーの支援・育成を目的とする国際エンジニアリングアワード「ジェームズ ダイソン アワード」を開催しているのですが、2021年の日本国内最優秀賞は筑波大学大学院のチームでした。ろう・難聴者とコミュニケーションを行うため、会話を瞬時に字幕表示してくれるシステムを開発したのです。このように、障がい者や高齢者などの社会的弱者をサポートする技術やサービスの開発を志すことは、若いエンジニアに欠かせない要素です。私は日本の若いエンジニアにとても勇気づけられています。
本社をシンガポールに移したのは、アジアの一部となるためです。アジア経済が著しく成長していることはもちろん、アジアの消費者はとてもテクノロジーに敏感です。だからこそ、アジアで製品を作るだけではなく、アジア市場の一部にならなければならないと判断しました。
ブレクジット(英国の欧州連合離脱)や新型コロナウイルス感染拡大以降、ローカルだけで物事を済ませる地産地消の意識が高まっています。それを反グローバリゼーションという人もいますが、私は逆にグローバル化を進めたと思っています。製造拠点を世界中に拡大し、より消費者に近いところで製造する。運賃も運搬する時間も節約できるし、市場の変化により敏感に対応できるようになる――。コロナウイルスがもたらした唯一の利点は、グローバル化を加速させたことではないでしょうか。
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