人工衛星データに基づく土地評価サービスなどを手掛けるベンチャー企業、天地人(東京・港)の岡田和樹・農業研究員は、アスパラガスを月面基地で栽培する方法を研究している。天地人に出資する宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、米国などと協力して2030年代に月面での人の本格的な長期滞在を目指している。岡田氏は月の住人が新鮮でおいしいアスパラガスを口にできるようにしたいという。それにしてもなぜアスパラガスなのか聞いた。

川崎市の農園で育てたアスパラガスを収穫する岡田和樹氏
川崎市の農園で育てたアスパラガスを収穫する岡田和樹氏

アスパラガスを月面基地で栽培する方法を研究しているそうですね。

天地人の岡田和樹・農業研究員:はい。月面基地で野菜を育てる研究は、世界各国で進んでいます。ただ、確実に栽培できる方法はまだ確立されていません。特にアスパラガスを育てるのは難しい。収穫まで3カ月以上を要する作物は、時間がかかりすぎるので、月での栽培に適さないとされています。アスパラガスの場合3カ月どころか、1年以上もかかります。

 また広い耕作地の確保が難しい月では、狭い面積で効率よく野菜を育てる必要があります。ところがアスパラガスは大きく育つと、高さ2メートル、幅1メートルぐらいを1株で占有してしまいます。さらにアスパラガスはほかの野菜に比べて水分の吸収量が多い。水がとても貴重な資源となる月での栽培には向かないと言えます。

それでもあえて月面基地でのアスパラガス栽培に挑戦するのはなぜですか。

岡田氏:ほかの野菜よりも月での栽培が困難であるからこそ、試行錯誤の過程でたくさんの知見が獲得できるはずです。あえて遠回りして得た豊富な知識は、アスパラガス以外の野菜にも応用できます。例えば水分吸収量が多いアスパラガスを低コストで栽培できるようになれば、ほかの野菜ならもっと低いコストで育てられるようになるはずです。

 それにアスパラガスには、栄養ドリンクに含まれるアスパラギン酸をはじめ、月面基地の住人の健康維持に貢献できる栄養素が豊富に含まれています。「ルチン」と呼ばれる抗酸化物質もその一つで、摂取すれば、宇宙放射線が体に与える影響を抑制できると考えられています。

 あと、アスパラガスは鮮度の劣化がものすごく早い野菜です。採れたてのアスパラガスと、スーパーで売っているアスパラガスでは味が全然違います。月面でも、新鮮でおいしいアスパラガスをぜひ食べてほしいと思っています。

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