2022年1月、ベンチャーキャピタル(VC)のANRI(東京・渋谷)は気候変動、環境問題に特化した新ファンド「ANRI GREEN 1号」の新設を発表した。ファンド総額は100億円を目指すとしており、産業革新投資機構(東京・港)や関西電力グループのK4 Ventures(大阪市)などから既に43億円の出資を集めている。
運用期間が最長15年という異色のファンド設立に奔走したのは、ANRIでジェネラル・パートナーを務める鮫島昌弘氏。鹿児島県私立ラ・サール高校卒業後、東京大学理学部天文学科を経て東京大学大学院理学系研究科天文学専攻に進み、一度は研究者の道を歩もうとした異色のベンチャーキャピタリストだ。
VCは投資家から資金を預かって運用し、高いリターンを戻すことが宿命だ。にもかかわらず、あえてリスクが高く、蓋然性が決して高くない領域に挑むファンドを立ち上げたのはなぜか。鮫島氏の描くベンチャーキャピタリストとしての矜恃(きょうじ)を聞く。

もともと研究者の道を歩んでいたと聞いている。
ANRIジェネラル・パートナーの鮫島昌弘氏(以下、鮫島氏):大学院では宇宙を研究していた。もともと研究者の道を進みたかった。米国の大学院を訪問した際、アカデミックの領域でベンチャーが次々と生まれていたのを目の当たりにした。これを仕事にしたいと思い、商社に入社。だが、リーマン・ショックが起きたことでグループごと解体となってしまった。
その後、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)で2年ほど仕事をした。どうしても日本のディープテックのシード投資をしたくて、インターネット領域でシード投資をしていたANRIに2016年、参画した。
立ち上げたファンド「ANRI GREEN 1号」は民間の独立系VCとしてはかなり異色だが。
鮫島氏:米調査会社クリーンテック・グループが気候変動に取り組むスタートアップを毎年選出して公表する「グローバル・クリーンテック100」において、日本企業はこの十数年、一度もノミネートされていない。
なぜか。資金の出し手であるVCが環境系ベンチャーへの投資に本格的に取り組んでいないからだ。致し方ない側面は確かにある。環境系ベンチャーは結果を出すまでに相当な時間を要する。ファンドは通常長くても10年で勝負をかけなくてはならない。ファンドはIRR(内部収益率)を高くすること、リスク・リターンの分配が重要になる。
成果を出すまでに時間がかかるディープテックといわれる領域に対し、一般的にVCが投資を避ける理由はここにある。例えば、メルカリは2013年に設立され、2018年に上場した。蓋然性の高い会社に投資するのはVCとしては当然のことだ。
だが、我々は一方でジレンマを感じていた。こうしたルールでどんなに頑張っていても、地球規模の課題解決に挑むディープテックベンチャーには投資ができない。そのためには初期的なストラクチャーから見直さなければならなかった。
Powered by リゾーム?