新規事業に難色を示した投資家たち

 実はこの時、「未上場のタイミングで別事業に挑戦することを好ましく思わない投資家も多くいるのだ」と実感しました。成長している事業、すなわち印刷業にリソースを集中して確実にリターンを生んでほしいと思うわけです。

 もちろん彼らはエンジェル投資家ではないので、10億円超の規模で投資をする際に「今から全く新しいビジネスをスタートします」と言われても、歓迎できないのは当然かもしれません。

 しかし、もしその時点で既に走り始めている事業があれば「今回調達した資金のうち8~9割はラクスルに使いますが、1~2割は新規事業の拡大に挑戦したい」と説得の余地があります。投資家の納得度も全く変わってくることでしょう。

 私としても国内外の投資家の間で「ラクスルは印刷の会社」というイメージが固まってしまう前に、「ラクスルは様々な業界で産業システムをデジタル化によってアップデートし、インパクトを与える会社です」と言える実績を作りたかった。

 そこで2014年2月のシリーズBが終わったタイミングで事業開発を本格化し、物流業界のプラットフォームづくりに取り組み始めたのです。

 その結果シリーズCでは、オプト(現デジタルホールディングス)さんに出資していただきました。オプトはまさに日本のインターネットビジネスを支えてきた会社。創業者で現在はデジタルホールディングス会長を務める鉢嶺登氏やCEO(最高経営責任者)を務める野内敦氏と我々は、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)をもっと進めていきたいという考えが一致していました。現在でも多方面で協力していただいています。

 では、なぜ印刷の次に運送業へと進出したのか。これは非常に明快で、印刷業界の構造と共通点が非常に多かったからです。

 例えば、当時の運送業界は14兆円規模の大きなマーケット。ただし、上位10社で約半分にあたる7兆円の売り上げを占めていました。しかし、運送会社の数は約6万社も存在している。このことから分かるように、業界そのものが深刻な多重下請け構造に陥っていたのです。

 立ち上げの準備期間は運送会社の事業説明会に参加したり、運送トラックの助手席に乗せてもらって実際の働き方を見せていただいたりと、現場の解像度を上げていきました。その過程において、荷物を運んでほしいユーザー(荷主)、それを運びたい運送会社(ドライバーを含む)の双方で、運送業界に潜む様々な課題が見えてきたのです。

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