
前回は個人とチーム、そして個人と会社が信頼し合える関係づくりを目指す新プロジェクト「Be Trusted」の概要をご紹介しました。本プロジェクトでは9つのテーマ別にラクスルにおける現状の課題を分析し、解決に向けた具体的な施策を提示しています。実はそのほとんどの施策の根幹をなす重要な取り組みが「ジョブディスクリプション(職務定義書)」の導入と「ローコンテクスト(言葉による表現を重視)文化」への移行です。
これに大きな影響を与えたのが、ラクスルにとって2つめの開発拠点となるインドオフィスの設置でした。我々がそのカントリーマネジャーとして採用したのは、かつて米DELL(デル)でエグゼクティブを務めるなど、シリコンバレーのリーダー経験が豊富なインド人でした。そして彼とインドオフィスの人事部が考案した人事制度を確認させてもらったところ、非常にローコンテクストで、なおかつ伝達事項が事細かにドキュメンテーション化されていることが分かりました。
「このドキュメントを読んで理解してください」
「プロダクトはこう理解してください」
「このような目標を設定し、この開発をこの期日までに行ってください」
このようにジョブディスクリプションや人事制度は誰が読んでも分かるよう、シンプルかつ明瞭な表現で文書化されていました。文化や価値観の違いで読み手に誤解を生じさせたり、他の解釈が生まれたりする余地がないように配慮されているのです。
その配慮の背景には、インドが多様な民族・言語・宗教で構成された、極めてダイバーシティー(多様性)に富んだ国家であるということが関係しています。隣村の人とは全く言葉が通じない、ということも珍しくないそうです。またインドには欧米のグローバル企業が数多く進出しており、欧米型の人事制度が浸透しています。そのためインドのカントリーマネジャーもその他のスタッフも、ローコンテクストでドキュメンテーションベースのマネジメントに非常にたけていたのです。
日本の企業文化になじんだ方は、伝達事項をすべて文書化するというやり方に少し冷たい印象を受けるかもしれません。しかし私はインドオフィスのアプローチの方が、どんな国や業界から来た人にも受け入れやすく、フレンドリーな制度だと思えました。この経験が「Be Trusted」を考案するうえで大きな下地となったのです。
また「ローコンテクスト化」「ドキュメンテーション化」によるマネジメントは、オンボード(新入社員の戦力化)の標準化に大きく貢献しました。必要なドキュメンテーションをすべて用意すれば、あとはオンボードプログラムに従って段階的に共有していけばいいのです。そうすることで受け入れ側の「人柄」「面倒見の良さ・悪さ」といった属人性によるリスクを排除できますし、どの社員に対しても質の高いオンボードを効率よく提供できるようになるのです。
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