2014年ごろ、事業の急成長の裏で起こっていた社員の大量離職。そして20年の新型コロナウイルス禍による売り上げ急落とリモートワーク下の孤独。過去2回にわたってお話ししてきた2つのハードシングス(極めてつらい試練)を乗り越えた現在、私はいま新たな課題に向けてプロジェクトをスタートさせています。今回はそのプロジェクトの目的や内容を紹介するとともに、日本企業の人事戦略における問題点について考察していこうと思います。

(写真:的野 弘路)
(写真:的野 弘路)

 「Be Trusted」は現在ラクスルで進行中のプロジェクトの名称で、このネーミングは自分が周囲から信頼されている状態を意味しています。実は人というのは周囲から信頼され、同時に仲間と信頼し合う環境下において、非常に高いパフォーマンスを発揮できるのです。その状態を入社1日目からつくることができれば、事業はさらに大きな成長を遂げることができますよね。その実現に向けてラクスルでは、「信頼」を中心に据えた新しい人事制度をつくろうとさまざまな取り組みを行っています。それが今年1月31日からスタートした「Be Trusted」なのです。

 このプロジェクト立ち上げの背景には、2つの大きな変化がありました。1つはダイバーシティー、つまり社員の多様化です。当社は印刷事業のラクスルとしてシングルビジネスでスタートしましたが、いまはハコベル(物流事業)、ノバセル(運用型テレビCM事業)、ジョーシス(コーポレートIT関連事業)と合計4つの事業を展開するマルチビジネス企業へと成長しました。そして新たにさまざまな経験や価値観を持つ人材が入社したことにより、社員が多様化したのです。

 20年以降、ラクスルはインドとベトナムに開発拠点を設けました。いまやラクスル全体のエンジニアのうち3分の1を海外メンバーが占めており、社員の人種・国籍においても多様化が進んでいるのです。現状の社員のダイバーシティーに対して、既存の人事制度では十分に対応しきれていないと感じていました。

 もう1つは働き方の変化です。コロナ禍をきっかけにラクスルではリモートワークが浸透しました。しかしリモート環境で入社する社員が増えたため、チーム内で直接顔を合わせたことのないメンバーも多くなりました。結果、細かなケアやサポートが行き届きにくくなったのです。

 そうすると会社のカルチャーやコンテクスト(文脈)を理解する機会もありませんし、業務のミッションや全体像を十分に把握しきれないまま業務に向かわざるを得なくなる。その状態で新入社員が最大限のパフォーマンスを発揮し、チームと信頼関係を築くことは困難です。結果として入社後3カ月~1年以内の退職者が増加し、このこともBe Trustedプロジェクト立ち上げの大きな要因となりました。

9つのテーマで課題を洗い出し

 それでは「Be Trusted」とはどのようなプロジェクトなのでしょうか。概要としては、以下に挙げる9つのテーマに沿ってラクスルが現在抱える課題を提示し、解決に向けた施策に全社で取り組んでいこうというものです。

ラクスルが「Be Trusted」で掲げる9つのテーマ (C)RAKSUL,inc. All rights eserved.
ラクスルが「Be Trusted」で掲げる9つのテーマ (C)RAKSUL,inc. All rights eserved.
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 具体的にどんな施策を行っていくのか、一部をご紹介したいと思います。