(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)

 前回まで「DXとか何か?」「日本でDXが進まない原因は何か?」について考察してきました。ラクスルでは、先日、新たに第4の事業として、「コーポレートITのプラットフォーム事業」をスタートしました(詳細はこちらの動画をご覧ください)。

 なぜこの事業に取り組もうと思ったのか。ラクスルでも直面した「コーポレートIT」にまつわる課題についてお話ししたいと思います。実は皆さんが勤めている会社でも、ここがDX(デジタルトランスフォーメーション)のボトルネックになっているかもしれません。

 第1回で、自社管理の業務や会計のシステムをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に置き換えることが業務レイヤーのDXだとお話ししました。そうすれば自社でシステムを構築して管理したり、大量のデータを抱えたりする必要もありません。

 それではSaaS導入をDXの目安の一つと見た場合、日米でどれくらいの違いがあると思いますか? 米BetterCloud(ベタークラウド)が発表したリポート「2020 State of SaaSOps」によると、米国企業は1社当たり80個のSaaSを利用しているのに対し、当社が2021年7月に実施したアンケート調査では、日本では1社当たりの利用数は17個にとどまりました。日本でも徐々にSaaSが浸透しつつあるとはいえ、IT先進国の米国とはこれほどの差があるのです。

 この差は「独自のシステムを構築すること」と「汎用品を使うこと」をどう戦略的に使い分けてきたかの違いだと言えます。

 米国では企業の約6~7割がCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)の役職を置き、その責任者が自社の投資すべき技術領域とそうでないものを明確に切り分けます。彼らは競合と差別化したいコア領域はコストをかけて自社開発しますが、逆にノンコア部分は汎用品や外部サービスをうまく活用することでコストを削っているのです。

 一方、日本企業は内製主義が根強く、なんでも「自社オリジナル」を作りたがります。大手ベンダーに自社仕様のシステムを外注し、結果的に保守・運用もがんじがらめになってしまう。こうした会社が実に多いのです。これは「自社開発で強みを出す領域」と「SaaS導入によって低コストで生産性を高めていく領域」を切り分けられる人がいないからです。ちなみに日本企業でCIOやCTOを設置している企業は、2割に満たないのが現状です。

 とはいえ、私は日本の現状をそこまで暗いものと捉えていません。現時点でのSaaS利用率は米国と大きく差がついているものの、労働人口が減少していくなかでSaaS導入というDXを避けて通ることはできないからです。国内の主要SaaS数も年々急増しており、2020年にその数は800を超えました。おそらく日本のSaaS利用率も数年で米国と近い水準に迫っていくものと予測しています。

 日本の企業でSaaS導入が進む、これ自体は非常に喜ばしいことです。しかしその一方で、導入されたSaaSを管理する側はどうでしょうか。今回フォーカスしたいのは、これらの管理業務を担うことになるコーポレートIT部門(または情報システム部)です。

次ページ 肥大化するコーポレートITの管理業務