(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)

 前回は、日本のDXが遅れているとお話ししました。それはいったいなぜなのでしょう。日本人のデジタルリテラシーが低いからでしょうか?

 私はそうは思いません。むしろ日本人は非常にデジタルが好きで、1990年代のデジタル化は世界で最も早かった国だと思います。だからこそ当時の米マイクロソフトや米アップルは、日本で大きく売り上げを伸ばしました。「日本にはユニコーン企業(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)がない」という話もよく聞きますが、それは日本に東証マザーズがあることも関係しています。世界的なインターネット企業は、国内にたくさんあります。

 それでは1990年代と2020年代の今、なにが変わってしまったのでしょうか。私が考える大きな違いは、経営者層の年齢やマインドです。1990年代の企業のトップたちは世界から新しいものを取り入れようとする気持ちがまだまだ強く、攻めのマインドを持っていました。しかし、現在は全体的に経営者層の高齢化が進み、守りに徹しているように思えます。

 年齢を重ねることが悪いというわけではありません。それより問題なのは、年を重ねた後、過去の経験に頼ってしまい、学ばなくなってしまったこと。おそらく今の経営層は、最新の情報や技術について学ぼうという意識があまりなく、1980~90年代の成功体験や過去のやり方を2020年に持ち込んでいる人が多いのではないでしょうか。

 現代では組織のマネジメント、ビジネスモデル、投資や資本市場との向き合い方、あらゆることにOSのアップデートが求められています。かつてはそれが20年や10年に1度でよかったのに、いまや5年に1度、3年に1度と、更新頻度はどんどん速くなっているのです。

 ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さんや楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史さんは、熱心な勉強家としてよく知られている経営者です。彼らはそうやって最新の情報を取り込んで自らをアップデートし続け、浮かんだアイデアをスピーディーに実行しています。トップが新しい未来を描き続ける会社は、そこから逆算して現在とのギャップを埋めていきます。だからこそ未来に向かって進化していけるのです。

 一方、トップが学ぶことなく守りに入った企業は、旧来のやり方を踏襲し、過去の延長線上に未来を見ようとします。そこにあるのは過去の続きの今でしかなく、新しい未来ではないのです。

 これはビジネスの話にとどまりません。オリンピックや政治を見ていても、ガバナンス側にいる年齢層の高い方々が「学んでいない」という問題が今、日本のあらゆる場所で起きているように思えます。これこそが日本でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない本質的な原因なのではないでしょうか。

 かくいう私自身も、経営者として常に危機感を持っています。新しいビジネスモデルのリサーチは意識的にしていますが、そこで改めて感じるのは、ここ5年くらいの間で経営のOSがまったく変わっていること。「自分もアップデートがまだまだ足りないな」と日々感じます。

 ラクスルは現在、インドにも開発チームを置いています。そのため、日々のミーティングを通じて現地の最新情報がダイレクトに入ってきます。そのやり取りを通じて、自分たちの武器がもう古くなりつつあることを痛感させられることもあるのです。これからの経営者は、人や情報が行き交うグローバルなエコシステムにも、常に触れておく必要があると思います。

 前回お話ししたように、ラクスルでは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という企業ビジョンを掲げています。もともとは印刷事業で起業しましたが、ビジョンにあえて “印刷” という言葉を入れなかったのは、別の業界でも旧来のシステムをデジタル化して、産業構造を変革したいともくろんでいたからです。

続きを読む 2/2 DXに出遅れている日本はマーケットの宝庫

この記事はシリーズ「松本恭攝の「産業DXの要諦」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。