
「あの時がラクスル第2の創業期だった」
今振り返ってもそう思えるほど、社員の離職が相次いだ2014年が自分にとって最も大きな経営上のハードシングスだったと思います。そしてもう1つ、私にとって大きな困難となったのが、新型コロナウイルスの流行でした。
「答えのない自問自答」に陥る
IR(投資家向け広報)資料でも公表しておりますが、当社の印刷事業はホテル、レストランなどのサービス業が主要なお客様です。しかしコロナ禍による営業自粛等の影響で、その印刷需要が激減。その結果、2020年2月と5月の売り上げを比較すると、わずか3カ月で40%減という大きなダメージを受けました。
当然ながら財務的にどんどん厳しい状況になっていきます。ただ、採用活動にも力を入れていたので社員数は右肩上がり。経営者として雇用も守らなければなりません。またウイルスの詳細も分からずワクチンもなかった当時は、入社したばかりの社員もすべてフルリモートの勤務態勢にせざるを得ませんでした。
そのような働き方の中ではっきりと自覚したのは、「自分は、オフィスに出社してホワイトボードを前に仲間と議論していた日常から、多くのインプットを得られていたのだ」ということでした。リモートワークとなり自然とインプットを得られない環境下で、私は「今後の自分自身はどのような働き方をすればいいのだろうか」「会社の方向性や急速に悪化する財務状況をどうすべきなのか」という、答えのない自問自答に陥ってしまいました。
その時に展開していたラクスル(印刷事業)、ハコベル(物流事業)、ノバセル(運用型テレビCM事業)の3事業は既に社員にマネジメントを任せていました。自分で直接手掛けている事業もなく、会社でのインプットもない日々で、事業の「手触り感」が薄れていくような気がしました。そのような状況下で私はどんどん孤独を深めていきます。コロナは私にとって、経営者であると同時に個人として非常に大きなハードシングスだったのです。
悶々(もんもん)と悩み抜いた結果、私は2つの施策を導き出しました。1つが以前成り立ちをご紹介した4つ目の事業「ジョーシス(コーポレートIT関連事業)」の新規立ち上げです。自社のボトルネックでもあったコーポレートITの課題をきっかけに社会課題を感じ、スタートしたビジネスですが、これを私がメインで引っ張っていくことによって事業の「手触り感」を再び取り戻すことができました。またこの感覚は各事業の解像度を高く持つために非常に役立つので、経営者のポジションでも全体を高い解像度で見渡すことができます。他の事業を人に任せながらも、何か自分の事業の手触り感を高めたり、物差しとして持っておいたりすることの大切さを、身をもって実感しました。グローバルでのサービスにチャレンジするという新しい目標設定も、リモート下だったからこそ決断できたのかもしれません。
もう1つは会社の仕組みに関する新しい施策です。私がいなくても各事業が新たに仕組みをつくっていけるように、ポートフォリオは各事業のリーダーに任せ、私は経営者として全体の最適化、つまりポートフォリオのマネジメントに注力していくということです。
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