(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)

 近年はビジネスだけでなく、行政や教育など様々な業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が取り上げられるようになりました。実際に私自身も「DXについてどう思う?」「どうすればもっとDXが進む?」などと聞かれる機会が増えたので、ここで私なりの考えをまとめてみようと思います。

 そもそもDXという言葉がさかんに使われるようになったのは、2018~2019年くらいのこと。日本は年々、労働人口が減少していて深刻な人手不足に陥っていました。「デジタル化しないと業務がこれ以上回らない」というネガティブな状況があったんです。

 ところが、近年のDXは「手書きはめんどくさい」「印鑑って本当に必要なの?」「直接会わなくてもZoomでいいよね」といった、ユーザーのデジタル受容度の高まりを追い風として受けています。より効率が良く、生産性の高いプロセス、つまりデジタル化があらゆる局面で求められるようになりました。そしてこの流れを後押ししたのは、間違いなく今回のコロナ禍だと言っていいでしょう。

 私が2009年にラクスルを設立したとき、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを掲げました。これは旧来型の産業にインターネットを持ち込み、産業構造そのものを変えていこう、というものです。当時はまだDXという言葉はありませんでしたが、まさにいま世の中で求められるDXとオーバーラップしているなと感じています。

 「DX推進が重要」と言われますが、ある業界または企業でDXを推進しようとするとき、いったい何をどのようにデジタル化していけばいいのでしょうか。そこにはいくつかのレイヤー(階層)があるのではないかと考えています。もう少し詳しく説明していきましょう。

レガシーを持たないスタートアップが強い理由

 最初の導入では、メール主体だったコミュニケーションツールをビジネスチャットサービス「Slack」に置き換えたり、オンプレミス(自社所有)だったサーバーや社内システムをクラウドサービス「AWS」でクラウド化したりすることが考えられます。これが第1のDX、インフラレイヤーです。

 2番目はアプリケーション、業務管理や会計のシステムといった業務レイヤーが対象になります。例えば、自社で管理する業務や会計のシステムにSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を導入すれば、自分たちでソフトウエアやデータを持つ必要もなく、会計士を頼む必要もありません。うまく外部のサービスを活用することで、業務効率を改善しながら余計な管理費や人件費を削減できるのです。

 そして3番目、最も大きなDXとなるのがビジネスモデルそのもの。まさに私たちラクスルが取り組んでいる事業もそれに該当しています。例えば、ラクスルでは旧来型の生産・販売が一体化したシステムを分離して自社のプラットフォームに載せることで、生産者とお客様をつなぎ、より便利で効率の良いサービス提供を実現しています。

 また近年はEC(電子商取引)がすっかり浸透したため、ショップ構築サービスである「BASE」や「Shopify」といった、オンラインで店舗を開設できるプラットフォーマーが伸びてきました。これも不動産業をDXしたビジネスモデルだといえます。これまで実店舗で支払っていた賃料が、オンライン店舗での決済手数料に変化しているのです。マクアケ、メルカリなど多くの方が日常的に利用しているサービスも同様にプラットフォームビジネスで、ビジネスモデルそのものがDXといえます。

 第1と第2のレイヤーは外部サービスを使った自社の効率改善の話でしたが、第3のビジネスモデルでDXを実現している企業は、実はあまり多くありません。なぜなら、これは既存の企業にとって「いま持っているものを捨てて新しいものを作る」ことを意味するからです。

 例えば、これまでも老舗百貨店など多くの大手企業がオンラインモールに挑戦してきましたが、結局は楽天グループしか勝つことができなかった。その原因は、既にある組織や人材が実店舗向けに作りこまれていたからだと私は考えています。本来はまったく別物であるオンラインショッピングのUX(ユーザー体験)やユーザビリティーを、きちんと追求できるケイパビリティー(組織的な能力)がなかったのです。このレイヤーのビジネスをスタートアップ企業が主導しているのは、既存の組織がなく初めからデジタルに特化した組織を構築できたことが大きいと思っています。

続きを読む 2/2 データから新たに生み出されていくもの

この記事はシリーズ「松本恭攝の「産業DXの要諦」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。