(写真=的野弘路)
(写真=的野弘路)

 前回は広告のプラットフォーム事業「ノバセル」の立ち上げの経緯についてお話ししました。「テレビCMの効果を可視化する」というアプローチは、既存の広告代理店ビジネスの在り方に一石を投じたもので、スタート時は業界をかなりざわつかせていたようです。ただ、業界から反発を受けるというよりは、むしろ注目され、話題に取り上げていただく機会が多かったようでした。

 従来のテレビCMは、どれだけ商品やサービスの存在が視聴者に浸透したかという「認知率」が効果測定の指標とされていました。しかし、どれだけお金をかけてCMを流して認知率がアップしたとしても、それが売り上げに結び付かなければ本当に効果があったとはいえません。おそらくこれまで多くの広告会社、そしてクライアント側においても、テレビCMがどれだけ売り上げを伸ばしたかという効果の可視化、つまり費用対効果の測定までは十分になされてこなかったのではないでしょうか。

 テレビCMが実際の売り上げに及ぼした効果を細かく測定し、その効果が放映するテレビ局や時間帯、番組などでどれほど変動するかを分析し始めたのは、2000年代後半からテレビCMを流すようになったIT企業だといわれています。その先駆けとなったのがGREEやDeNAといったゲーム業界の企業です。ゲームはCMのレスポンスが非常に早く反映されるプロダクトなので、効果が分かりやすかったのでしょう。

 その後もライフネット生命やSansanがテレビCMをスタート。ラクスルやグノシー、メルカリをはじめとしたスタートアップもグロースハックとしてテレビCMを積極的に活用するようになりました。

 なぜ多くのIT企業が「認知率」という曖昧な数値ではなく「売り上げの伸び」という効果測定にこだわるのか。それには大きく2つ理由があります。1つは企業活動がデジタル型なので、迅速かつ容易にデータを収集できる点が挙げられます。フィジカルの会社よりも効果を測定しやすいため、分析と最適化をスピーディーに実現できたのです。

 もう1つは合理的な企業体質にあります。IT企業は一般的に、さまざまな成果をメトリクス(定量)化し、すべての費用対効果を数値化して考える合理性の高い組織です。マーケティングや広告戦略に対してもその姿勢は一貫しています。

 例えば、年間の広告予算が10億円、それに対してリカーリング(継続課金)の顧客を10万人獲得すると目標設定すれば、1人あたりの獲得コストは1万円です。2~3年でそれを回収するために最も効率の高いやり方をリサーチし、投資対効率の高い順に広告を打ちます。テレビやラジオ、新聞、雑誌の4大マスメディアに対するブランド志向もありません。テレビCMでもインターネットのデジタル広告でも、効率よく顧客が獲得できればどちらでも構いません。