ラクスルグループで、2015年から物流プラットフォームを手がけてきたハコベル事業部。こちらは22年8月、セイノーホールディングス(HD)との提携で「ハコベル株式会社」としてJV(ジョイントベンチャー)化しました。前回の記事「事業成長の限界を『JV化』で突破する」では「物流業界にオープンパブリックプラットフォームを構築し、DXを推進したい」、そんな志を同じくするセイノーHDとの出合いや、JV化をどのように実現したかについてお話ししました。

 しかしながらこの分社化の話は、ハコベルのメンバーにとってまさに寝耳に水の話でした。というのも本件はインサイダー情報に該当するため、社内のごく限られた関係者の中でしか共有することができなかったからです。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

 社員に向けてハコベルのJV化を話したのは、正式な情報開示をする6月10日の当日でした。リリース直後に記者会見を開きましたが、ハコベルメンバーを集めてライブでその模様を見てもらいました。そこで初めて自分の口から社員に説明することができました。

 その後、メンバーと直接コミュニケーションを取ったのは、新たにハコベルCEO(最高経営責任者)に就任した狭間健志です。彼はラクスルでハコベル事業を担当する執行役員でした。そして、そのコミュニケーションの場にはセイノーHDの田口義隆社長も来てくださって、直接メンバーにコメントを頂きました。青天のへきれきで分社化を伝えられたメンバーたち。私としては「ネガティブな声も上がってくるかもしれない」と予想していましたが、彼の報告によるとほとんどのメンバーがポジティブな反応だったと聞きました。

 やはり自分たちで素晴らしいプラットフォームをつくり上げても、単独では成長に限界があり、事業が伸び悩んでいるという現実を皆、それぞれに感じていたようです。そこに対して、今回の提携が自分たちにはない物流業界内での信頼と実績、それに営業力や全国レベルのネットワークをもたらしてくれる。このことが事業にどれほどのインパクトを与えてくれるかをメンバーの誰もが明確に思い描いたはずです。分社化という判断がハコベルにとってどんなメリットをもたらすのか、おそらくメンバー全員が強い納得感を持ってくれたのではないでしょうか。

 また前回の記事で、「JV化にあたってはいくつかの運送会社と話をしてきたが、フィロソフィーが完全に一致したのがセイノーHDだった」と述べたとおり、候補各社と何度もひざ詰めで議論したり、交渉を進めたりする中で、セイノーさんが一番いいのではという認識が、経営メンバーや分社化に関わったハコベル担当者の共通の思いになっていきました。他社さんの中にも魅力的な人材やネットワークをお持ちで、ご一緒すればシナジーがありそうだなというところもありました。

 ですが、セイノーHDとは議論が進めば進むほど、一緒にやりたいという思いが強くなったのです。それくらい両社は目指す方向性が同じであり、素晴らしいカルチャーを持つ企業でした。事業メリットもさることながら、こうしたカルチャーのフィット感もメンバーは感じてくれたのかもしれません。

 経営者として私からハコベルメンバーに伝えたのは、「我々は決してハコベルを売却したわけでもなく、カルチャーが別れたわけでもない」ということ。私たちは皆、それぞれの事業を通じて「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを追求する仲間であることに変わりはないのです。

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