(写真=的野弘路)
(写真=的野弘路)

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 運び手(ドライバー)と荷主が直接結びつく場がなく、少数の大手企業と多くの中小企業との間で多重下請け構造が慢性化していた日本の運送業界。印刷業と共通点の多かった産業構造にラクスルのようなマッチングプラットフォームを構築し、業界にデジタルトランスフォーメーション(DX)をもたらそう。それが運送事業・ハコベルの立ち上げの狙いでした。

 そしてラクスルで蓄積した事業ノウハウを生かしてサービスの認知度を高め、同じように成長させていこうと考えていました。

 ラクスルの印刷事業は、テレビCMの展開でサービスの認知度が大きく向上し、それと比例するように売り上げが順調に伸びていきました。2014年に7億円だった売り上げが2015年には約4倍の27億円、その翌年は約2倍の51億円と、飛躍的に成長していったのです。

 しかし、現実はそう簡単にはいきませんでした。ハコベルでも認知度が高まればサービスを使ってもらえるだろうという目論見(もくろみ)をよそに、現実の売り上げがなかなか伸びていかなかったのです。

 強く期待していたテレビCMを展開しても、売り上げは大きく動きませんでした。業界が違うだけでここまで反応が異なることは、正直に言って予測していませんでした。

 そこからは運送業界のカンファレンスでPR活動をしたり、運送会社にチラシをポスティングしたりと、地道な活動で少しずつ荷主さんと運送会社さんの両方にアプローチすることで顧客を積み上げていきました。

 当時を振り返って分析すると、やはり運送業界のサービスとしては全く新しいものだったため、お客様も慣れていなかったのだと思います。

 また、運送サービスを利用するユーザーというのは企業の中でも物流部門における特定の人であり、印刷サービスを利用するユーザーよりも数が限られていました。テレビCMのようなマスマーケティングとはあまりマッチしていなかったのでしょう。

 最初はわずか6人のチームでスタートしたハコベルでしたが、翌年は10人を超え、その翌年は30人を超え、そして現在は60人以上の組織に成長しました。前述の通りハコベルはラクスルとは成長の仕方が全く異なりますが、これまでに2つの転換点があったように思います。

 1つはセールス組織を拡張したこと。そこから大口のパートナーなどを獲得できたことで、事業開始後3年目あたりから売り上げが大きく伸びてきました。

 もう1つ大きな転換点となったのは、マッチングプラットフォームだけだったサービスに加えて「ハコベルコネクト」という運送管理向けSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)をスタートしたことです。

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