カーボンニュートラル、クリーンエネルギー、EV(電気自動車)への対応……。変化の大波にさらされている自動車業界。ネットにつながる(Connected)、自動運転技術搭載(Autonomous)、ライドシェアやカーシェアといったシェアリングサービス(Shared)、電動化(Electric)の頭文字を取った「CASE」の推進が叫ばれる中で、トヨタ、いすゞ、日野、ダイハツ、そしてスズキが商用車の分野で共闘の意思表示をした。軽自動車を強みとするスズキは、巨大な新興市場のインドでシェアの半分を占めるなど、業界で独自の存在感を示してきた。今、どのような危機感を持ち、次の一手を考えているのか。(構成:佐藤友美)

<span class="fontBold">鈴木俊宏 すずき・としひろ</span><br />スズキ代表取締役社長。1959年生まれ、静岡県出身。東京理科大大学院理工学研究科修士課程修了後、日本電装(現デンソー)を経て、スズキに入社。2015年6月より現職。(写真=的野弘路)
鈴木俊宏 すずき・としひろ
スズキ代表取締役社長。1959年生まれ、静岡県出身。東京理科大大学院理工学研究科修士課程修了後、日本電装(現デンソー)を経て、スズキに入社。2015年6月より現職。(写真=的野弘路)

スズキは社長と社員の距離が近い企業だなと感じています。

 鈴木修相談役(先代社長であり、鈴木俊宏社長の父)は現場の人で、現場の情報をなんでも知っているという印象があったと思います。でも、私は相談役ほど現場のことを知らない。となると、現場の人たちが率直に情報を上げてくれないと経営のかじ取りを誤ってしまいます。特に悪い情報は、組織のルートを通すとなかなか伝わってきません。上司をすっとばして直接話ができるくらい、距離の近いコミュニケーションができるようにしたいと考えています。

スズキといえば、今お名前が出た社長のお父様である鈴木修相談役の印象が非常に強いですよね。答えにくい質問かもしれませんが、その存在を感じながら、社長はどんなリーダーシップを執りたいと考えていますか?

 43年にわたってトップにいた人ですから、今なお影響力は強いです。軽自動車も、相談役がいたから守られてきた部分が大きい。それらは否定されるものではなく、むしろ今後はさらに軽自動車の強みを生かしていかなくてはいけないと考えています。

 今、自動車業界は、カーボンニュートラルやCASEへの移行が叫ばれており、地球環境に優しい車が求められています。でも、よくよく考えると、これはまさに創業以来スズキのモノづくりの根幹だった「小・少・軽・短・美」の方向性と合致しているんですよね。軽自動車は、これからもっとグローバルに求められてくるだろうし、むしろチャンスは広がっていると感じます。

米国では、テスラが時価総額で100兆円を超すなど人気を博しています。一方で、電気自動車が増えすぎると充電設備が足りなくなるなどの新しい課題も見えてきています。

 今、世の中ではEV化が正解のように語られてしまっていますが、解決できていない課題はたくさんあります。まさに充電ステーションの問題はその一つです。今、日本にはガソリンスタンドが約2万9000店舗あって、給油ポンプが1店あたり4点あるとすると、12万ポンプ。給油には3~5分かかっています。

 それが、電気自動車になると充電のための時間が10倍になる。単純計算しても120万もの充電器が必要になります。これは、自動車業界だけで解決できる問題ではありません。今ですら、ガソリンスタンドが減って給油難民が出てきているのに、充電ステーションが整備されないまま電動化がさらに進んだら、今度は「充電難民」が増えてEVは使い物にならないということにならないだろうか。こうしたことも、もっと議論していく必要があります。

 コストの高騰も問題です。我々は1979年に初代「アルト」を47万円で造りましたが、今は、到底その値段では造れない。なぜなら、物価の上昇や安全規制、排ガス規制に対応すると、倍近いコストがかかってしまうからです。そこにプラスして電動化のコストを加えたら、いったいいくらになるでしょう。

 生活者のラストワンマイルを支える軽自動車が、それで本当によいのだろうか。それで本当に社会は回っていくのだろうか。「お客様の立場に立って困りごとを解決していく」という原点に立ち返ると、今の「とにかくEVこそ正解」といった考え方ではなく、新たな打ち手も必要だと感じています。