先日、トヨタ、いすゞ、日野が立ち上げたプロジェクトに、ダイハツとスズキが加わりました。

 Commercial Japan Partnership(CJP)プロジェクトですね。まさに、今言ったような課題は業界全体で指針を出すべきだと考え、参画しました。

 これからの自動車業界は、「共闘」と「協調」と「競争」を分けて取り組んでいく必要があると感じています。お客様の困りごとや業界の困りごとに関しては「共闘」する。1社ではできない課題は「協調」して進めていく。だけど最終的にはそれぞれの企業の戦いなので、そこは健全な「競争」を行うというものです。

「お客様の立場に立って」という言葉がこれまでに何度か出てきています。スズキの社是も「消費者の立場になって価値ある製品を作ろう」ですが、実際のところ、役職が上になるほど顧客から遠くなり、直接顧客の声が聞けていないのではないかとの危惧はありませんか? 歴史のある会社ほど、マーケティングをリサーチ会社に頼んだり、コンサルティング会社が作った資料で議論したりするケースが散見されます。

 その点は私も強い危機感を持っています。お客様をちゃんと見ているかというとそうではなく、上司の反応を見てしまっているケースも多々あると感じています。スズキは(自動車メーカーの中では)小さな会社ですから、「現場力」が失われたら生き残れません。

 100年前、スズキもスタートアップでした。鈴木道雄初代社長は、母親のために織機を作った人です。それが評判になって事業を拡大していった経緯があります。「お客様のためならどんなことをしてでも応えろ」が、初代社長のモットーでした。創業以来、「お客様にとってもっと使いやすい商品とは?」を自問し続けて、今のスズキがある。今こそ、この原点に立ち戻らなくてはと考えています。

<span class="fontBold">伊佐山 元(いさやま・げん)</span><br />WiL代表。パートナー企業(出資企業)に眠る社内IP(知的財産)を活用した新規事業創出や企業内起業家の育成にも力を入れている(写真=山田愼二)
伊佐山 元(いさやま・げん)
WiL代表。パートナー企業(出資企業)に眠る社内IP(知的財産)を活用した新規事業創出や企業内起業家の育成にも力を入れている(写真=山田愼二)

一方で、今後イノベーション事業を立ち上げていくには、自動車会社としての成功体験を一度捨てなくてはいけない側面もあるのではないでしょうか。織機の会社であったスズキが「お客様のために」を追求した結果、軽自動車を生み出したように、スズキの人たちがやるべき事業は必ずしも軽自動車を造ることだけではないかもしれない。

 シリコンバレーに役員の大半を送ったのも、まさに顧客視点の「デザイン思考」を学ぶためでした。この経験を積んで刺激を受けたメンバーを中心に、「次世代モビリティサービス本部」を立ち上げ、取り組んだのがKUPO(歩行を補助する電動アシストカートから、乗って移動できる電動車いすにもなるシニア向けのモビリティー)事業です。

 KUPOにトライして見えてきた課題はたくさんありました。実際、既存の四輪車と同じ発想で仕事を進めていこうとする気質が、想像以上に根強く残っていたのです。

 しかし、車の延長線上で考えていては、次世代のモビリティーは生まれないという危機感を覚えています。意識改革を進めるためには、人材の流動性も考えていかなければならない。今、医療系の知識がある人や、ITソフトウエアの開発部門にいた人など、他業界から広く人材を採用できるような取り組みを進めています。同時に、人事評価の仕組みも変えていかなくてはいけないと考えています。

 もちろん、長年勤めている人の中には「変わりたくない」という人も多い。世代間でのギャップも広がっていると感じています。だからこそ、もっとコミュニケーションを取らないと駄目だと思うんです。

 今は新型コロナウイルスの影響でなかなか難しくなっているのですが、私もできるだけ従業員と話をするように心がけています。食堂に行って話しかけたり、ぷらっと工場に行って話をしたり。デジタルで十分なコミュニケーションもあると思うのですが、それだけではうまく情報交換できないところもある。そこは使い分けしていかなければと感じています。