高齢化や過疎化が急速に進む日本。さまざまな課題を抱える中、積極的に「日本流」のモビリティー改革を進める日本交通とモビリティテクノロジーズ(MoT、東京・港)。10年後、30年後、日本の交通事情はどう変わるのか。そして、日本の移動が変わるとき、日本人の働き方はどう変わるのか。前編に続き、日本交通・川鍋一朗会長に、WiL代表・伊佐山元が聞く。

(構成:佐藤友美)

川鍋一朗(かわなべ・いちろう)
川鍋一朗(かわなべ・いちろう)
米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン勤務を経て、2000年にタクシー会社の日本交通に入社。05年8月社長就任。現在は、日本交通の会長、タクシーアプリ「GO」を運営するMobility Technologies(モビリティテクノロジーズ、MoT)の会長、東京と全国のハイヤー・タクシー協会の会長の3足のわらじを履く(写真:吉成 大輔)

オンデマンドシャトルというと、具体的にはダイナミックプライシング(需要と供給の状況に合わせて変動させる価格)を入れて運営するのでしょうか。

 それをするためには、規制の緩和が必要になります。ただ、ダイナミックプライシングもUberのように、場合によっては最大で5倍になってしまうような設定だと、お金持ちしか乗れない民主主義の究極のような仕組みになってしまう。でも、日本であれば、タクシーは公共交通という立て付けなので、もう少し社会主義的な解釈ができると考えています。例えば1.5倍くらいまでの幅でプライシングするとか。

 そしてこれをやるには、最初から政治と行政と業界にしっかりとコミュニケーションを取って、その人たちが動ける最速のスピードで進める必要があります。私は、タクシー協会の会長でもありますし、業界最大手の日本交通の会長でもあるし、テクノロジーを持ったMoTもやっている。意図したわけではありませんが、気付いたらそうなっていた。もはや、日本の公共交通の進化に遅れが生じるとしたならば、それはひとえに私の怠慢のせいだと思わざるを得ない。その矜持(きょうじ)と責任を持って進めています。

今は少なくとも川鍋さんがいるから、そういう調整もできるし、規制も変えられると思います。でも、いつか川鍋さんも年を取って引退しなくてはならなくなりますよね。川鍋家の息子が継げばいいというわけでもない。後継者をどう育てていくおつもりですか

 日本交通には、社長ができる人が10人くらいいます。日本交通は、生え抜きが多い会社なのですが、普通の大企業と違うのは、タクシー乗務員からの生え抜きと学卒での生え抜きと2種類いて、それがうまくミックスしていることです。その中には、20年前、お金のなかった時代から私と一緒に疑似経営経験を積んできたメンバーがたくさんいる。だから、タレントは既に相当います。むしろ、候補者がいすぎて選ぶのが大変なくらい。日本交通は人材に困っていない。

 ただ、生え抜きが多いと刺激が少なくなる。だから、(タクシー配車アプリの)「JapanTaxi」を始めるときは、外部の方にお願いしました。私のアバウトな右脳系ではなく、左脳系のやり方も見てもらって。そちらの方が、社員としてはまねしやすいんですよね。私だと、ある日突然「きっとこっちだー!」と直感で動いてしまうので。

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