ライドシェアサービスの台頭、運転手の高齢化、過疎地域の移動手段……。さまざまな課題を抱える中、積極的に「日本流」のモビリティー改革を進める日本交通とモビリティテクノロジーズ(MoT、東京・港)。10年後、30年後、日本の交通事情はどう変わるのか。そして、日本の移動が変わるとき、日本人の働き方はどう変わるのか。日本交通・川鍋一朗会長に、WiL代表・伊佐山元が聞く。
(構成:佐藤友美)

モビリティーに対する概念は、この10年で大きく変わりましたよね。米国では「Uber(ウーバー)」の台頭によって配車システムが根底から変化しました。しかし現在は、生活が不安定なギグワーカーを大勢生むなどの社会問題を抱え、揺り戻しが起こっています。最近シリコンバレーでは、近距離でも70ドル(約1万400円)くらい取られるなど、Uberは気軽に乗れる交通手段ではなくなりつつあります。
川鍋さんは、そういった各国の競争相手をどう見ているのか。日本でどのようなモビリティーの進化を起こそうとしているのか、お伺いできますか。
「移動」は、本質的にローカルにおける行動なんですよね。大半の人にとっては、利用者も働き手も、その場に住んでいるローカルの人たちです。ですから、ローカルが勝つ可能性が非常に高い領域だと私は考えています。韓国だとカカオタクシー、東南アジアではシンガポールのGrab(グラブ)やインドネシアのGojek(ゴジェック)のようなローカルチャンピオンが出ているのも、やはり移動がローカルだからでしょう。
とはいえ、今後、高齢化した過疎地などは、どこかでUber的な要素が必要になるのかなと思います。御社のように新卒で採用し、しっかりトレーニングして、安全安心にこだわり福利厚生も行うとなると、それがボトルネックになることもありますよね。
うちの社員もタクシーアプリの「GO」を使っていますが、やはり、地方では電話でタクシーを呼ぶか、ホテルに呼んでもらうことになります。これって、日本交通の限界じゃないかと話をしていたところです。
現在、GOは47都道府県のうち、29の地域にしか展開できていません。私も先日広島に行きましたが、まだ支払いが現金だけでした。これは我々の努力も必要ですし、地方のタクシーも時代に応じていかなければならないところです。ただ、地方でもひと世代下の若い層はやる気満々なので、今は過渡期だと感じます。
先ほどの、地方の移動に関していうと、現実的にはオンデマンドシャトルのようなものを考えていかなければならないと思います。電車も大型バスも維持できない地域では、ハイエースのようなものに何人かで相乗りしていく形態がたくさん出始めています。
正直なところ、僕は、その形態にしか地方交通の未来はないと思っています。加えていうなら、人だけではなく、物も載せて貨客混載にして運用効率を上げていくしかない。伊佐山さんがおっしゃる通り、これを日本的な今のモデルの延長で考えるとちょっと時間がかかる。
なぜ時間がかかるかというと、米国とは決定的に違う部分が2つあるからです。まず、Uberはリープフロッグ(既存インフラが整備されていない状況で、新しいサービスが一気に普及すること)でしたよね。以前のサンフランシスコは、タクシーの存在自体がほとんどなかったですから。日本のように既存のシステムがそれなりに機能しているときに、ゼロからスクラッチするのは時間がかかります。
もう1つは、移動に関する責任の所在ですね。
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