その失敗談を知っている当時の日本の経営者はみんな引退していて、まったく継承されていません。

 僕はラッキーで、自分たちがCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を立ち上げるときにシリコンバレーへ勉強しに行き、「2000年前後のCVCがなぜ駄目になっちゃったの?」っていろんな人に聞けたんです。そうしたらまさに今、お話があったベクトルの話をされたんです。「日本人は、シナジーのベクトルを自分に向けたんだよ。それによってスタートアップの可能性の領域をすごく狭めてしまった。それをくり返した結果、全てのスタートアップに対する投資が失敗したんだ」と。

 「シナジーを生みたいと思ったら、まず、投資先の可能性を最大限に引き出す」という考え方は、僕らがずっとやってきた「三方よし」の経営方針や、会社のフィロソフィーである「利他の心」と合致する。だからまず、そのスタートアップ企業に成長してもらうところにベクトルを向けようよと言っています。

とはいえ、「どうして社外の人に、自分たちが苦労してつくったアセットを使わせていい思いさせるんだ」といった社内での反発はありませんか? 例えば、IoTプラットフォームを提供するソラコムとアライアンスを組んでいますよね。例えば、ソラコムがKDDIのアセットを使い倒せるように、どんな工夫をされているのでしょうか。

 確かに、スタートアップに自社のアセットを活用してもらうことは、想像以上に大変です。

 ソラコムの場合、うまくいったのはやはり、社長である玉川憲さんの経営姿勢のたまものだったと思います。ものすごく視座が高い方なので、こちらの責任者も「玉川さんが言うんだったら我々のアセットを最大限に使ってみよう」とか、「ソラコムの資産を最大限活用してみよう」という話になる。

 日本はスタートアップのIPO(新規株式公開)とM&A(合併・買収)の比率が8対2くらいだそうです。VCもIPOを勧めるし、IPOでお金持ちになって満足する経営者も多い。玉川さんも、それで満足しようと思ったらできたはずです。

 でも、玉川さんには「グローバルプラットフォームになりたい」という高い視座があった。だから我々のグループに入ってもらったし、ベースを我々と一緒につくってSwing by IPO (大手企業の傘下で成長した後にIPOを目指す成長モデル)を目指している。日本も、こういう高い視座を持った経営者をもっと育てなくてはいけないと感じますね。

大企業の経営者の理解がないと、スタートアップを買収した後に奴隷にしてしまうんですよね。

 ソラコムにCFO(最高財務責任者)として出向してくれている社員が非常に活躍してくれています。現在、ソラコムにおいて、KDDIの人間が活躍できるよう、ステップアップの設計を構築しているところなんです。

 KDDIから出向した社員がスイングバイしてよい経験ができて、ソラコムでの成功を社内でシェアしてくれるような、そういう設計ができたら若い社員は「自分たちにも、そんなことができるんだ」と思うでしょう。そう思い始めてくれれば勝ちだと思っています。

 社長になって気づいたのだけれど、通信会社ってやはり優秀な社員がいっぱいいるんですよ。いるんだけど、日本の終身雇用制の中では、どうしてもオールラウンドプレーヤーが優秀に見えていた。

 でも、最近は、ジョブディスクリプション(職務記述書)を明確にして、「この専門領域では自分がトッププレーヤーになれる」という意識の醸成を図っているんです。そうすると、将来的には「自分はこのジョブディスクリプションを持っている。だから、このスタートアップとこの領域で活躍したい」と考える社員も出てくるはず。そうすれば、本人も、会社自体も、もう一段ステップを上がっていける。そんな絵姿が描ける設計をしてみたいと考えています。

 でも、これが結構大変なんです。ジョブディスクリプションを導入するだけでも大変だったから。しかし、こうした制度設計で、若いメンバーはやる気になります。自分の専門領域を明確に持つことが、これから人生100年時代の自信につながると肌で感じ始めると、会社に対してもいい影響を与えると考えています。